―2023年10月某日―

成田空港国際線ターミナル1

「疲れた…」
秋風というにはまだ暖かい、晴れた日の夕方。
日本ではまずお目にかかれないであろう、白と紫のハイビスカスで統一された大型のソフトスーツケースを引きずって、私は広すぎる空港の搭乗手続きをしていた。

キッカケは2月、久しく連絡を取っていあかった先輩からのline。
軽い雑談の後、文体が変わったな、と思うと、少し焦った様子で「10月にこちらにこれないか?」という。
二つ返事でOKした。これでもハワイの事情はそこそこ察することができる。要は人が足りないのだ。
あまり知られていない、日本仏教の国際支部。
ハワイの場合は、日本人の移民と共に伝わったが、今年は布教して120周年だという。

「そっか…、もうそんなに経ったのか」
修行時代、私が20代の頃呼び出されて、観光ビザギリギリの3か月間、ハワイに派遣されたのが10年前。
あの時は、布教して110周年と、会場である正法寺の建立100周年の記念式典を同時にしたものだから、それは盛大だった。
当時、右も左もどころか言葉も満足に話せなかった私が、よくもまぁそんな長い期間駐留し、式典の手伝いどころか、法要・慰問・蚤の市の準備から販売する料理の仕込みまでやらされ、記念誌の製作まで関わるとは。
人生、何がキッカケでどうなるか解らないし、そこから続く縁で、また私は飛行機に乗っている。

ハワイアン航空、添乗員と向かい合う形になる脱出口傍の窓際席。
コロナ以降久しぶりの国際線は、常夏の観光地へ旅立つ日本人観光客と、長期バケーションに心を躍らせる外国人でごった返していた。
「手伝って欲しい事は、法要の準備と参加に片づけ、それにスタッフの賄い作り…ね」

経費削減である。
島であるため、アメリカの中でも物価の高いハワイ。檀家制度も存在しないため、現地のスタッフは様々なイベントを手作業で作り出し、地域コミュニティへ還元する。
昔から変わらないハワイのスタイルだ。
支給品の安物イヤホンで現地の音楽を聴いていると、アナウンスが入った。

~当機はまもなく離陸します。安全確認を~


19:55 成田空港発
08:20 ホノルル着

離陸して数時間。
夜行便の旅客機内でやることは少ない。
ビジネスでもエコノミーでもほとんど一緒。すなわち「食べて寝る」、これに尽きる。
特にハワイは、時差の関係で夜に出たら朝に着くため、いかに早く寝るかが現地を楽しめるカギだ。
過剰すぎるくらい温められたチキンソテーを流し込み、下手くそな英語でウィスキーはないかと尋ねると、ジョニ赤の小瓶を渡された。
ついでに氷と水を頼んで、いそいそとボトルを開けると、ガラスではなく強化プラスチック製であることに気がついた。
軽量化なのか、環境保護なのかはわからないが、少なくとも地上でお目にかかることはなかなかない。
100年以上前から市場に存在し、世界一売れているウィスキーは、故郷イギリスを飛び出して、今や150を超える国で販売され、人々に愛されている。
そのためには、常に時代の生活に溶け込めるような柔軟さが必要なのだろうな、とまどろんだ思考で一人ぼやいた。

※余談だが、ジョニ―ウォーカーという名前は、創業者のジョン・ウォーカーからとられているが、シンボルマークのシルクハット紳士は、本人となんの関係もない。当時随一といわれた漫画家「トム・ブラウン」が創作したキャラクターで、名前はストライディングマンという。

到着したホノルル。
ダニエルKイノウエ空港と名称を変えたソコへ降り立つと、不意に懐かしさを覚える。
日本の夏よりも鮮やかな青色の空。
乾燥した潮風とラフな空気。
入国審査を終わらせて先輩に連絡すると、車を出すから場所を教えて欲しいという。
トランクの特徴と服装、最寄りの番号を伝えると、10分ほどで到着すると連絡が入る。
周りを見渡すと、フリップを持ってツアー客を待っている人、家族の迎えを待つ人、タクシーに乗り込む人と様々だ。スマホとにらめっこしている人は、Uberの予約待ちらしい。
日本ではまだ導入されていないが…、住み分けさえしっかりすれば、まぁ時間の問題だろう。
今の時点で、需要と供給が釣り合っていない。

数年ぶりにお会いした先輩はすっかり日に焼けて、道場にいた時よりも筋肉質に見えた。
話を聞くと、こちらですっかりサーフィンにハマり、休みの日や仕事終わりにこぞってビーチに行くらしい。
駐在9年目、土地にも詳しくなって、愛用のハイラックスは荷台に砂が落ちていた。

空港から15分ほど。
パンチボールの麓、ヌアス通りに、9か所ある曹洞宗ハワイ別院の元締め、正法寺がある。
インターネットどころかテレビすらなかった時代、日系の開拓移民と一緒に伝わり、100年以上の年月をかけて独自のスタイルを生み出した。
今となっては日本でもなくなりつつある新聞のお悔やみ欄は、ハワイ全域に存在し、何度か参加した通夜式の参列者は、100人超えがザラにある。

真っ白なインド建築の正面扉をくぐると、教会のような長椅子と机。
西洋式のハードカバーで閉じられた経本は、英語と日本語対応。
文字が読めなかった時代に生み出された音楽付きのお経も、変わる事がない。

隣接しているホストハウスに、現住職の老師がいるので挨拶に行くと、ちょうどダイニングでお茶を飲んでいた。
数年前に奥さまに先立たれ、高齢なのもあり、今は日替わりでヘルパーに頼っているらしい。
仏壇に焼香だけさせてもらい、今日泊まる部屋に荷物を置かせてもらう。
こっちの寺には来客用の部屋がいくつもあり、先行組の私は、式典が始まるまでここに停めさせてもらうのだ。家賃は食事準備。

ヘルパーがいるなら良いのでは?と聞いたら、食事はこっそりサービスでやっていたらしく、彼方としても他人の作った食事を食べたいらしい。
それならと了承して、この日は肉じゃがにした。
新潟出身の老師は、白米がお寺にいくらでもあるというし、基本調味料は持ってきているので問題ない。
南国独特の軽いビールをいくつか頂戴して、ささやかな乾杯を始める。
ハワイ生活スタートである。

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