古巣・五百羅漢寺で
先月某日、目黒・五百羅漢寺にて、「仏教井戸端トーク・交換法話会」が緊急開催されました。
「交換法話」とは、京都で住職をしている尼僧の「英月」さんと、私ことここより編集長のふたりが、「普段、得意としているそれぞれのジャンルを交換してお話する」という法話会です。
普段、私が得意としている「マンガ」などのカルチャーや「野球」などのスポーツの話を英月さんが。そして私は、英月さんの割と壮絶な人生を追いながら、浄土宗の「選択(せんちゃく)」のお話をさせていただきました。
英月さんのお話をここで記すことはできませんので、私の法話をまとめ直したものを掲載いたします。
会場に来られなかった方は、ぜひご一読ください。
「英月さんの選択」「阿弥陀如来の48願のうちの、4番の話」の2本立てです。
「お見合い35回にうんざりして、アメリカに家出して僧侶になって帰ってきました」
なかなかパンチのある見出しですが、これは英月さんの書籍のタイトルであり、実話です。
銀行員だった20代の頃にお見合いを重ね、ストレスから耳が聞こえなくなり、逃げるように渡ったアメリカで、ひょんなことから僧侶になった英月さん。
帰国後、「世間の枠からはみ出ても大丈夫だよ」と伝える僧侶として活動するようになりました。
まわりからの評価を気にしたり、他人と「幸せ度」を比べて落ち込んでしまう人の多い中、英月さんの「経験からくる法話」は、心に染み入ってきます。
銀行員を辞めてアメリカに行き、帰ってきたときには、その銀行も合併されていたという英月さん。
自分が拠り所としていたものは仮のものでしかなく、環境の違うアメリカでは「今までの価値観」は、「自分を狭めるもの」でしかありませんでした。
自分の価値観を変えることは難しいですが、そこを問いなおしてみることで、世界は広がっていきます。
私の話になりますが、僧侶になる前、しがない書籍制作の中小企業で、10年ほど働いていました。
英月さんは「出世などしたくない。とりあえず居る場所があればよし」というスタンスで働いていたとのことですが、私はしばらく働いているうちに出世欲が出てきて、仕事に熱中するようになりました。
最初の結婚をして、実家の近くにマンションも買い、はたから見れば順風満帆に見えたかもしれませんが、いつしか目の前の忙しさに追われるようになり、結果として、英月さんと同じく「目的を手に入れるために働くのではなく、働くこと自体が目的」になってしまいました。
あれだけ好きだったマンガやドラクエからも離れ、酒だけは飲み、朝から晩まで馬車馬のように働き、結局、手元にはなにも残らない。
そして英月さんと同じく、目の前のことから逃げ出して、僧侶となったのです。
そこには、浄土宗でいう「選択(せんちゃく)」がありました。
英月さんも私も、「こうするものだ」という思い込みの価値観から、自分の人生を狭めていました。
しかし、目の前の道を「自分で選びとる」ことで、その道で全力を尽くすことができるし、選ばなかった方の道への後悔も減るのです。
自分で選んだその道は、仏さまが守ってくれています。
「自分で選んだ」とは言いつつも、ひょっとすると「仏さまの計らいで」「今まで結んだ縁によって」選ばせていただいた道であるかもしれません。
そこをあえて「自分で選んだんだ」という思いをもつことで、選んだ道に自信や責任が生まれます。
そして逆に、「無責任」になることもできるのです。
「自分で選んだ」からこそ、立ち止まることもできるし、その道を引き返すこともできます。
日本人はマジメなので、「選ばせていただいた」道に対して、「やめてはいけないのではないか」と思ってしまいがちです。
さまざまな縁による恩恵によって、そこにたどり着いたとき「有難いこの縁を、活かさなければならない」と感じてしまうのです。
本来、そこに責任を感じる必要はありません。縁は、その人だけのために設えてくれた「据え膳」ではないからです。
それを生かすも殺すも、自分の自由です。
せっかくいただいた縁を無碍にしても、他人から文句を言われる筋合いはありません。
たとえそれが、親から35回も整えてもらった縁談でも。
誰にだって、楽しいことも苦しいこともあります。
心が揺れることも、ツラいことも、泣きたいこともあるでしょう。
そこでどう思って、どう行動するかで、人生は動いていきます。
その決断は、結局、自分で行うしかないのです。
アメリカで自分を見つけてきた、英月さんのように。
※1本目でそこそこの文字数になったため、2本目はあらためて、近日中に掲載いたします。
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浄土宗僧侶。ここより編集長。大正大学卒業後、サラリーマン生活を経て、目黒の五百羅漢寺へ転職。2014年より第40世住職を務めていたが現在は退任。ジブリ原作者の父の影響で、サブカルと仏教を融合させた法話を執筆中。