洞穴寺社(前篇) 

神社仏閣といえば、規模の大小はあるものの、ひらけた境内に鎮守の森のる木々が茂り、開放感があって明るい場所、というイメージが一般的だと思います。しかし、今回はそんなイメージの正反対の場所がある神社仏閣のお話。
テーマは「洞穴寺社」。
洞穴(洞窟)のある寺社6 つを前後編に分けてご紹介していきます。



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 穴澤天神社 弁天洞窟 

まず一つ目は、東京都稲城市にある「穴澤天神社」です。自然豊かな緑地保全地区の中にある静かな神社で、三沢川そばに参道の入り口があります。鳥居をくぐり、70 段を超える階段を上るとすっきりと抜けるような境内の向こうに本殿が見えました。

ここだけ見るとごく普通の神社ですが、ではどこに「洞穴」があるのかというと、本殿に向かう参道の途中、左側に下へ降りていく階段があります。 

そこを降りて行った先にあるのが、通称「弁天洞窟」です。(弁天洞窟へは下の公道からも入ることができます) 

その名の通り、崖壁にある横穴の入り口には琵琶を持った弁財天像が鎮座しています。 

洞穴のそばには、東京の湧き水57選にも選ばれたという湧水がこんこんと湧き出でています。 

この周辺に水脈が通っているということは当然、洞穴にもひたひたと水が滴り落ちています。その水が常に足元に溜まっている状態なので、その辺りを歩く時は設置されている飛び石の上を歩けるようになっています。 

この洞穴の中には元々はいくつもの石仏がありましたが、それらの石仏は現在、かつては穴澤天神社の別当寺(神社の管理経営を行った寺)でもあった、同市内にある威光寺にある洞窟霊場に安置してあるそうです。(なお、威光寺の洞窟霊場は、崩落防止の為封鎖され現在は立ち入り禁止になっています)
穴澤天神社の弁天洞窟は、入り口が2 つに分かれていますが、途中には繋がっている部分があります。奥行きは数メートルほどで、入り口から突き当りが目視できるぐらいの深さですが、中に灯りはありません。暗くて見えないというほどでもないのですが、中を歩く時に一番気をつけなければいけないのが、ところどころ天井から滴り落ちてくる水です。足元にも水たまりがあるのでそこに足を入れないよう気をつけながら中に入ってみます。

まず右側の穴を進むと、突き当りの壁面には石仏らしきものが彫られているようにも見えますが、経年の為かはっきりとしたフォルムは失われており、具体的にどんな仏様なのかはよくわからない感じです。 

そして今度は左側の穴を進むと、奥には石祠がありました。この祠にどんな神様が祀られていたのかは、穴澤天神社の方にもはっきりとしたことはわからないそうです。おそらくはこのあたりの土地神などではないかと思われますが、同じ場所で祀られていた石仏のことを

考えると、神道一辺倒というわけでもなく、仏と神への信仰が融合したかつての神仏習合時代を色濃く残す場所であるという印象を持ちました。 

ちなみに穴澤天神社で授与されている御守りに「梨守り」というチャーミングな御守りがありました。「災い無」を意味する梨の絵がとてもかわいいです。 

また御朱印にはちょっと珍しい透明クリア御朱印があり、こちらも御朱印集めをしている人には注目なのではないでしょうか。 



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喜多見不動尊 岩屋不動 

2つ目にご紹介するのは、東京都世田谷区喜多見駅近くの「喜多見不動堂」です。
創建は明治99年、喜多見村(当時)の住人らが発起人となり建立しました。本尊である不動明王像は、明治初頭の多摩川大洪水の際に流れ着いたもので、それを成田山新勝寺にて開眼したものだと伝えられています。

世田谷に多い急な坂のふもとに喜多見不動堂はあります。入り口から足を踏み入れるとすぐそこには池と小さな滝が。組まれた石垣の上には小さなお不動様が祀られており、池には鯉も泳いでいます。昔はこの滝で水行が行われたこともあったそうです。 

池の脇の階段を上っていくと、喜多見不動堂の本堂にたどり着きます。 

そのお堂の後方に繋がる道の先にあるのが「岩屋不動」です。 

本堂の後ろは斜面になっており、崖崩れ防止の為かコンクリートで補強されていて、岩屋の入り口もしっかりとつくられています。コンクリートで固められているのは入り口付近が中心で、中に入ると壁面は土壁のような表面です。奥行きはそれほどなく、中にライトもあったのであまり躊躇なく入ることが出来ました。(ライトは点灯している時としていない時があるようです)
突き当りには石祠があり、お不動様の尊像が祀られていました。

喜多見不動堂は、本堂・岩屋不動・滝不動と、不動3 尊が祀られており、ここに来てお参りすればお不動様のご利益も3 倍にアップ!となるかもしれませんね。
ちなみに、境内には他に稲荷社、蚕影神社、観音像が祀られていますが、この観音様がとて
もいいお顔で、右側が魚籃観音、左側がおそらく楊柳観音?白衣観音?かと思われます。優美な仕上がりで、作り手はなかなかの腕前だったのではと密かに思っています。



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江島神社 龍宮&江の島岩屋 

洞穴寺社特集前編ラストは、東日本でも大人気の有名神社「江島神社」です。 

江島神社は神奈川県藤沢市の江ノ島にある神社で、祭神は「多紀理比賣命(たぎりひめのみこと)」(奥津宮)、「市寸島比賣命(いちきしまひめのみこと)」(中津宮)、「田寸津比賣命(たぎつひめのみこと)」(辺津宮)の三女神からなる「江島大神」です。この三女神(特に市寸島比賣命)は、神仏習合の時代には弁財天と同一視され、今でも神社でありながら江島弁財天として祀られ多くの信仰を集めており、江島神社は「日本三大弁財天」としても知られています。また江の島には神社だけでなく江の島大師という寺院もあり、ここの本尊仏である不動明王像は「赤不動」と呼ばれ、高さがなんと66mもあり、室内にある不動明王像としては日本最大なのです。
その中でも今回ご紹介したいのは、江島神社の奥津宮の側にある「龍宮(わだつのみや)」という社(やしろ)です。
この神社はその名の通り、龍神様をお祀りしているということで、江島神社の参拝者にもとても人気が高く、奥津宮まで来た人はほぼ参拝していきます。

社が設置されている洞穴人工的に形成されたもので、ここに来て真っ先に目を引くのは洞穴の入り口上に置かれた龍神像です。堂々と人間たちを見下ろすその眼力は、まさにここが龍神の社として祀られ江島神社内でも指折りのパワースポットといわれるだけの風格を醸し出しています。

祭神は「龍神大神」。周りに立ち並ぶ幟(のぼり)の色は紫色に統一されていて、宗像三女神の本殿とは違う雰囲気に包まれているのが特徴です。洞穴の中は石造り風で、天井の真ん中が少し屋根のように角度がついていて、足元は平らな床なので「洞穴」というには多少の
違和感はなきにしもあらずといったところでしょうか?
中の社は金と朱塗りの華やかな造りで、どこもきれいに磨かれていて龍神様への崇敬がそのまま表れているようです。

さて、この龍宮が江島神社の中でも指折りのパワースポットと言われるのにはれっきとした理由があります。
奥津宮、龍宮を過ぎた先にたどり着いた江ノ島の西端に「江の島岩屋」という何万年もかけ
てできた自然の洞窟があります。全長約150150mのこの海蝕洞窟の最奥には、この江島神社発祥の地として552年に創建されたとされる、江の島で最も古い祠が祀られているのです。そしてその祠の真上にあるのが、この龍宮なのです。江の島最古にして最強のパワーに繋がっているというのなら、この神々しさも納得!ですね。
龍宮から江の島岩屋への距離はもう一息!龍宮からさらに順路を先へ進むと下り階段があり、江の島の端へとたどり着きます。そこから赤い欄干が目に鮮やかな岩屋橋を進むと、江の島岩屋入り口に到着!

早速売り場で入場チケットを購入し中に入ります。最初に進む通路広めゾーンでは、江の島岩屋や江島神社についての歴史を紹介するパネルがずらりと展示されています。江島神社の縁起に繋がる「天女と五頭龍」伝説から、地質学的に見た岩屋の成り立ちまで、江の島に
関する様々な資料が並んでいて、この通路を通り抜けた後には江の島の情報マスターになっているかもしれません。

そしていよいよ第一岩屋の入り口にやってきました。ここでは、希望者には小さなローソク
の乗った手持ちの燭台が貸し出されます。要所要所で明かりが灯されているとはいえ、日の届かない洞窟の中をローソクの明かりで照らしながら歩くというファンタジックなシチュエーションにはなんともワクワクしてしまいます。

かつてこの岩屋には役小角や弘法大師、日蓮聖人が参籠したと伝えられていて、その伝承を後世に伝えるべく、通路脇には弘法大師像が安置されていたり、また「日蓮聖人の寝姿石」などもあり、仏教との深い関わりが形となり数百年の年月を越えて残っていました。

このあたりを過ぎると洞窟の幅がどんどん狭まってきます。身長が160160cmを超える人は頭上に気をつけながら進んだ方がいいかもしれません。
ローソクの火に照らされる岩肌や通行人を見守るように並ぶ数々の仏像を過ぎながら進み
続けると、とうとう第一岩屋の突き当り、「江島神社発祥の場所」にたどり着きました!

長い年月を感じさせる石の祠群と狛犬が安置されています。ここの狛犬の顔は犬というよりかは獅子のようで、もしかしたら狛獅子なのでは?と思った風貌でした。もちろん二対の
像はきちんと阿吽の形になっています。

そしてこの場所の真上にあるのが、先ほど紹介した龍宮なのです。つまりこの場所は、龍宮の奥の院と言ってもいいかもしれません。
全長125125m第一岩屋の最奥、江島神社発祥の地は、ロマンとパワーに満ちあふれたミステリアスなところでした!
ちなみに、第二岩屋の方はまた違った雰囲気で、長さが第一岩屋の三分の一程度である洞窟内はカラフルにライトアップされており、突き当りには迫力満点の龍の像が入場者を待ち構えていました。元々江の島岩屋には龍神が住んでいるという伝説もあるので、この演出はピッタリかもしれません。

江の島岩屋の入場料は中学生以上500円、小学生は200円。 

また、江の島を縦断してここまで歩いてくるのはつらいな…という方には、江の島天橋から稚児ヶ淵まで運行する遊覧船「べんてん丸」(有料)を利用すれば、海上遊覧を楽しみながら岩屋そばまで行くことができます。
洞穴寺社特集前篇では、「喜多見不動」「穴澤天神社」「江島神社龍宮&江の島岩屋」をご紹介しました。後編でも都内洞穴寺社3つをご紹介しますので、お楽しみに!



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