大安寺について

現在、東京国立博物館にて、特別企画「大安寺の仏像」展が開催されています。

奈良県にある大安寺は非常に長い歴史を持つ名刹です。
どれほど長い歴史を持っているかというと、大安寺は日本で最初に国によって建立された寺院であり、しかも、奈良時代に南都七大寺と呼ばれた七つの寺院(大安寺・東大寺・興福寺・元興寺・西大寺・薬師寺・法隆寺)の中でも筆頭とされたほど重要な寺院なのです。

大安寺の歴史については、本展でも出展されている『大安寺伽藍縁起并流記資財帳(複製)』に記録されています。これによると、大安寺の最も古い歴史は639年に舒明天皇の発願により建立された「百済大寺」から始まりました。
この百済大寺こそ、日本史上初めての官立寺院です。その後、高市大寺、大官大寺と名を変え、716年に平城京(今の奈良県)へと移って大安寺と改称し、今に至ります。

平城京に移転した大安寺の約26万㎡の広大な敷地には、七重塔二基と九十余りの堂塔があり、八八七名もの学僧がいたと言われています。
また日本の僧侶だけではなくインド、中国、ベトナムなど海外の国々から渡来した僧侶たちもこの寺院内に住んでいて、大安寺内で様々な国際文化の交流が活発に行われていたと伝えられています。

現在では大安寺はがん封じ・病気平癒回向で知られており、建立からの長い歴史の中、人々の安寧と祈り続けています。
通常は宝物殿に安置されている天平仏像七体が東京にやってきたということで、ここより編集部員が行ってきました!

四天王立像

会場である本館11室に入ってすぐ、大安寺の紹介とともに展示してあるのが「多聞天立像(重要文化財)」です。体高はそれほどではありませんが、どっしりとした体躯、太い首や体の厚みからは武神の勇ましさと力強さが溢れ出ています。

一材から彫り出されている緻密な文様の在りように、聖なるものへの信仰が見えるようです。ぐっとにらんだ目つき、眉間にしわを寄せ歯を食いしばり、下方を睨み付ける尊顔と全身の甲(よろい)に施された文様が対照的。重厚なボリューム感があり、硬い甲とその下にあるであろう筋肉の存在を感じました。

表面の色合いがまだら模様のように全体を彩っているのが印象的で、浮き出た赤みが明るくて、真っ赤に燃える炎が全身を包んでいるように見えました。よく見ると上腕の甲の彫り物が面白いので、行かれる方はちょっと注目してみてほしいです。

仏教では多聞天は毘沙門天と同一とされていますが、力強く猛々しい面影と高く振り上げた右手に、宝棒(もしくは戟)を掲げる毘沙門天の風姿が重なるようです。

重要文化財 多聞天立像(四天王立像のうち) 奈良時代・8世紀 画像提供:奈良国立博物館 撮影・西川夏永

「広目天立像(重要文化財)」は、腰回りがどっしりとしていると同時に肩回りや首もぎっしりと中身が詰まっているような重みを感じます。
胸部の周辺の細工は喪失しているように見えますが、その分肩周辺の細工が目に留まります。失われてはいますが、持物は大刀であったとも言われているようです。

キリっと引き締めた口元が凛々しい「増長天立像(重要文化財)」。
袂(たもと)が外へ向かうようにたなびき、像の中心から外への空間の広がりを感じました。
腰を覆うように彫られた帯、甲、その下に巻いた薄布、裾、そして脚絆の重なりという、丁寧ながらも熱のこもった仕事ぶりが見事に形になっています。姿勢は直立ですが、手の形や衣で動きを出しています。

「持国天立像(重要文化財)」は今回展示されている大安寺の四天王立像のうち最も高さがあるとの通り、縦に伸び上がるようなシュッとしたフォルムをしています。表情はただの忿怒形ではなく、首を傾げ、何かを迷っているような、どこかに憂いを含んでいるように思えます。
頭部や胸部には華やかな花文様が彫られ、体の真ん中で結んである甲の緒、手甲・脚甲なども丁寧に細工が施されています。
膝や胴締中央のところにも花が彫られてあり、こだわりを感じます。
また、装束や甲だけでなく髪の毛など人体部分も細かく成形されていたのには驚きました。

大安寺の瓦

「複弁蓮華文軒丸瓦」「均整唐草文軒平瓦」は花弁が一枚一枚丁寧に造形されていて、丸瓦には花を取り囲む丸い点が、まるで寺院の屋根に並んで咲いた満開の花の輝きと瑞々しさを表しているように感じました。
飛鳥時代に日本に伝来してきた仏教が、奈良時代に花開いているのを象徴しているかのようです。
平瓦は、側面に唐草のような植物文様が施されています。
左右対称のデザインはよく練られており、かといってすべて一律に規則に従っているわけではなく、制作者の美的センスと遊び心を感じます。

弘法大師坐像

制作は江戸時代。
他の像と比べても格段に新しさを感じます。
玉眼がはめ込まれていたり唇に彩色してあったりと、人間としての生身っぽさを出しています。
弘法大師空海は、信仰の対象であるとともに、かつては大安寺で学び、後年には別当をしていたという深い関わりを歴史的事実として後世に残している部分もあるのではと思いました。
体はしっかりしていて、肌にも張りがあり、若々しく生命力に溢れています。
前方やや下方に視線を向けているのは、弘法大師を拝む僧職や信者をちゃんと見守っている、ということを表現しているのかもしれません。

菩薩立像

「楊柳観音菩薩立像(重要文化財)」
菩薩にしてはやや珍しい忿怒形なのがまず印象的でした。
足をそろえてまっすぐ立つ姿には気品があるが、非常に長い手をこちらに差し出している様は、表情とも相まって緊張感を感じます。
菩薩というより神将のような表情でした。
肌は滑らかなのと対照に、胸飾は丁寧に彫られ、髪の毛の一部は木屎漆(こくそうるし)で成形されています。
全身を一材から彫り出されている一木造の像ですが、目や眉はもちろん歯まで見える細部成形の完璧さには感嘆します。

重要文化財 楊柳観音菩薩立像 奈良時代・8世紀 画像提供:奈良国立博物館 撮影・西川夏永

「聖観音菩薩立像(重要文化財)」
上半身と腕が長く大きく、堂々とした印象の菩薩像です。
聖観音菩薩とありますが、完成時の名称は不明だそう。
この特徴的なフォルムが平安以降の寄木造との差なのかもしれません。
特に腕と手先に並々ならぬ情熱を感じました。
指が長く優美で、それぞれ違った動きの指には独自の表情があり、なんと手相まで彫られているのには驚きです。手と同じように、一般的な菩薩とはちょっと違う顔立ちにはどこか人間らしさも感じます。
笑ってもいない、怒ってもいない、不思議な表情です。
裙(くん)の表現も、折り重なっていたり、波のように繰り返していたり、滝のように上からまっすぐに落ちていたり、様々な見せ方を考えて成形していて、質感と重力の表現への熱意がそこにはありました。

重要文化財 聖観音菩薩立像 奈良時代・8世紀 画像提供:奈良国立博物館 撮影・西川夏永

「不空羂索観音菩薩立像(重要文化財)」
展示室の突き当たり、本展最後の作品です。
全身を一材から彫り出した八臂の観音菩薩像ですが、複数の腕は後付で作られた物のようで、当時の名称は不明です。一木造ということで、元の木はさぞかし巨木だったのだろうと想像してしまします。
男性とも女性ともいえない静かな面持ちはわずかな笑みをたたえ、合掌し何かを祈り続けています。
奈良時代の彫像らしく、木という素材を生かした柔らかな作風を感じました。
菩薩像に共通して思ったのが、手の表現に対する印象の強さでした。合掌し、印を結び、人々を導くように上げ、柔らかな手の平を差し出して、迷える衆生を救おうとしている仏様の姿を追い求めた奈良の仏師たちの心が令和の今でも仏像を通して伝わってきたような気がします。

重要文化財 不空羂索観音菩薩立像 奈良時代・8世紀 画像提供:奈良国立博物館 撮影・西川夏永

1400年近い歴史を持ち、日本仏教界においても非常に重要な寺院、大安寺。今回東京国立博物館で開催されている特別企画展は大安寺にまつわる天平仏像や資料などを通して重厚な歴史を感じられる展覧会です。総合展示のチケットのみで観覧できますので、他展示作品とも併せて楽しむ事ができるのも嬉しいところです。

開催概要

●展覧会名/特別企画「大安寺の仏像」
●会期/2023年1月2日(月・休)~3月19日(日)
●会場/東京国立博物館 本館11室
●住所/東京都台東区上野公園13-9
●開館時間/9時30分~17時00分(注)入館は閉館の30分前まで
●休館日/月曜日、1月10日(火)、2月7日(火)
(注)1月2日(月・休)、1月9日(月・祝)は開館 
●電話/050-5541-8600(ハローダイヤル)
●公式サイト/https://www.tnm.jp/

東京国立博物館 – Tokyo National Museum

東京国立博物館-トーハク-の公式サイトです。展示・催し物の情報や来館案内、名品ギャラリーなどをご覧いただけます。

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