もうネタバレよろしいでしょうか

公開から、はや2か月が経った「THE FIRST SLAM DUNK」。
情報量の少なさから、前評判は決して高くなかったが、ふたを開けてみれば、予想以上の大ヒットとなっている。

前回の記事では、少しネタバレに配慮して、映画のストーリーの根幹については、あまり触れないようにしてきたのだが、この2か月で、映画の感想も徐々に巷に流れ始め、今回の映画の主人公が「宮城リョータ」であることも、けっこう有名になってきた。

安西先生の声が、聴こえてくる。

そろそろ、自分を信じていい頃だ。
今ならもう十分、ネタバレしても大丈夫だよ。

この声にしたがって、今回の映画のネタバレも含めた「スラムダンク法話・第2部」を行うことにする。

「俺は俺の仕事をする!この試合に悔いは残さねえ!」

三井の前でそう言い切った、陵南高校の、ディフェンスに定評のある池上のように。

「いま」を積み重ねてつながった「縁」

前回もお伝えした通り、湘北高校は、さまざまな縁によって成り立っている。
中学から一緒だった赤木と木暮に加え、安西先生との縁によって、三井や宮城が入部する。
高校でもバスケを続けるかどうか迷っていた宮城が、入部を決意したのは、マネージャーの彩子がいたから。
その彩子は、富が丘中学の出身。富が丘中は流川の母校でもある。
流川は「近いから」湘北に来た。ひょっとすると、彩子も同じような理由で入学したのかもしれない。

「家が近い」というのも立派な縁。本人や家族が、その場所に住むことになるのには、どの家にも相当の物語があったはずなのだ。

宮城リョータは、映画によると沖縄の出身。父を亡くしており、母親ひとりのもと、兄と妹とともに育てられたが、不幸な事故により、バスケプレイヤーだった兄も亡くしてしまう。
そのことがきっかけで、母との関係が少しこじれ、結果、宮城家は沖縄から引っ越すことになる。
しかし皮肉ながら、この引っ越しがなければ、リョータは、神奈川県にある湘北高校に入ることはなかったのだ。

父や兄が生きていたら、リョータにはきっと、別のバスケ人生があった。
まだまだ、父や兄から学びたいこともたくさんあっただろうし、もっと一緒に過ごしたかったことだと思う。
しかし、神奈川に来なかったとしたら、安西先生や三井寿、モテない同士で意気投合した桜木花道、そしてなんといっても、愛しの「アヤちゃん」との出会いはなかった。

リョータにとって、どちらが良かったのかは、本人にしかわからない。
だけどきっと、父や兄が亡くなったことや、母との関係があまり良くなかったことなど、様々な「過去」を吹っ切ったことで、リョータの「いま」は開けたのだと思う。

カワイイマネージャーを見つけて入部し、同じ中学だった安田とともに練習し、「生意気だ」と不良に目をつけられるも和解し、モテないブラザーズの弟もできた。

仏教では「過去」も「未来」も、頭の中にしかない、と考える。
過去は過ぎ去ったことだし、未来はまだ、誰も見たことがない。目の前にあるのは、いつでも「いま」だけ。

リョータも、目の前の「いま」を大事にした結果、湘北高校バスケットボール部に入ることになり、兄と同じ背番号7を背負って、あの時夢見た、「打倒山王」も果たした。

「いま」を積み重ねたその先に、きっと「NO.1ガード」があるのだ。

「過去にこだわっていた」三井も救われた

中学MVPだった三井は、膝の怪我をきっかけとした挫折で、2年間のブランク期間があった。
本当はバスケットが好きだった三井だが、1度離れたバスケ部に、なかなか戻れないまま、時間が過ぎていってしまう。
色々な感情があったのだろう。不良となった三井は、バスケ部期待の新人だったリョータに目をつけ、ケンカを繰り返す。
その後、リョータを含め、バスケ部全体を潰してしまおうと、体育館を襲撃する三井だが、駆け付けた桜木軍団により、返り討ちにあう。
かつての仲間だった木暮から「また一緒にやろう」と誘いを受けるが、「バスケなんてただのクラブ活動」「つまらなくなったから辞めた」と強がってしまう三井。

きっと木暮も、その直前に三井に平手打ちを喰らわせた赤木も、本当は三井がまだ、バスケットが好きなことに気づいていた。本人だけが、本当のことを言えず、反発してしまうのだ。
本当は、大好きなバスケに没頭し、全国大会を目指して戦っているバスケ部が羨ましくて仕方がないのに。

バスケに燃やした青春を「過去のこと」だと言った三井に対し、「いちばん過去にこだわってんのは、アンタだろ…」と、リョータが本質をついた。
この言葉を受け、三井の心が揺らいだ瞬間、ブッダのように安西先生が現れる。
そして、あの有名な場面へとつながるのだ。
「安西先生…!!」「バスケがしたいです……」

過去を吹っ切って、湘北でバスケを続けているリョータには、三井の気持ちが少し理解できたのかもしれない。
怪我をしてバスケから離れた三井は、リョータと出会ったことがきっかけで、自分を取り戻した。
三井も、「今を生きる」ことにしたのだ。

山王戦で、自分を見失いつつあった赤木を励ますために、突然、陵南高校の魚住が現れ、「かつらむき」を行うシーンがある。
それを見た赤木は、「自分は自分。河田ではない」と気がつき、調子を戻した。
その後、三井もさらに覚醒する。
「河田は河田。赤木は赤木。そしてオレは…、オレは誰だ?」
もう三井のことを「走れない」と舐めていた相手が、終盤でも走り続ける根性に驚き、思わず名前を呼ぶ。「三井…!」
そして、ニヤリと笑った三井寿は、こう答えるのだ。
「おう、オレは三井。あきらめの悪い男…」

三井寿のアイデンティティは、安西先生の「あきらめたらそこで試合終了」で生まれ、リョータの「過去にこだわってんのはアンタだろ」で思い出され、「河田は河田、赤木は赤木」で花開いた。
「今を生きるんだ、三っちゃん」という、堀田の叫びが聞こえてくる。

リョータも三井も、さまざまな縁の中で、それぞれの人生を生きてきた。
そんな2人が出会えたのも、赤木と木暮が、1年の時からチームを守ってきたから。
バスケの縁に紡がれ、そこに流川や桜木が加わって、全員が「今を生きた」結果、湘北高校バスケットボール部という「最高のチーム」は生まれたのだ。

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