思っていることは、口に出した方がいい

女性初の裁判所長を務めた、三淵嘉子さんをモデルとした「リーガルエンターテインメント」として、近年の朝ドラでは最も高評価を受けた、NHK連続テレビ小説「虎に翼」。

「原爆裁判」「少年法改正」「尊属殺人」などの重たいテーマについて、主人公の寅子(ともこ)や、明律大学の仲間たちが果敢に挑んでいく姿や、それぞれの生活や立場が変わっていきながらも、「すべて国民は、法の下に平等」という憲法第14条の文言の中、懸命に生きていく登場人物たちが、感動を呼びました。

久しぶりの朝ドラ法話である今回は、「虎に翼」を仏教的に読みときながら、振り返っていきたいと思います。
普段「スンッ」としてしまいがちな皆さま。この法話を読んで、「思っていることは、口に出した方が、いい!」
「その方が、いい!」。

「道」を選べなかった登場人物たち

朝ドラの主人公は、「選択」によって、物語を動かしていきます。
「ちむどんどんする(胸がわくわくする)」かどうかで物事を決めた「ちむどんどん」の暢子や、父の死などで夢の微調整を余儀なくされながらも、「空を飛びたい」という思いを持ち続け、最終的に「空飛ぶクルマ」のパイロットとなった「舞いあがれ!」の舞などが記憶に新しいところです。

戦時中が描かれた「カムカムエヴリバディ」や「らんまん」、そして「ブギウギ」でも、不自由の中で、主人公たちは、自らの「選択」によって、道を切り開いてきました。

「虎に翼」には、「選びたい道を選択することができなかった」人たちが、たくさん登場しました。
本来は法曹の道を歩みたかったであろう、明律大学法学女子部の同級生たちは、女性であることで選択肢が閉ざされ、不本意ながら、それぞれが別の道を歩むことになってしまいました。
戦地に赴いたまま亡くなった寅子の兄、直道や、きっと徴兵後もお腹を下し続けていたであろう優三さん。そして、闇市を取り締まる立場であるがゆえ、一切の闇買いを拒否し続け、栄養失調で亡くなってしまった花岡らの無念も忘れてはいけません。

日本国憲法の制定後も、その解釈の違いや、急に得た自由への戸惑い、旧態依然とした偏見などから、真の意味での「平等」は遠いままでした。
そんな中、寅子たちは「石を穿つ雨だれ」となり、長い年月をかけて、少しずつ状況を改善していったのです。

みんな「道」を取り戻した

寅子はもちろん、「愛」をモットーに家庭裁判所設立へ向けて奔走したタッキーこと多岐川さん。原爆裁判の訴状を提出しながらも、志半ばで倒れてしまった雲野先生。そして、尊属殺人を重罰とする規定に反対し続けた穂高先生たちの尽力の積み重ねにより、少しずつ世の中は変わっていきました。

故郷での名前を捨て、日本へ帰ってきたヒャンちゃんは、一度断念した法曹の道へ戻り、家族とともに弁護士事務所を立ち上げ、原爆被害のあった在日の外国人の救済にあたりました。
子供の親権をとって離婚するために法律を学んでいた梅子さんは、ろくでもない家族を捨てて、「竹もと」でアンコ作りの修行を積み、ついに桂場さんに認められました。
涼子さまは、新憲法により華族としての立場を失い、苦労しながらも、新潟で玉ちゃんと共に喫茶「ライトハウス」を開きました。玉ちゃんとも、「お嬢様」と「お付き」という関係ではなく、対等な親友となりました。
よねさんは、「自分を曲げずに」弁護士となり、戦地から復員した轟とともに、弱者のために戦い続けました。「山田轟法律事務所」の壁には、大きく「日本国憲法第14条」の第1項が、大きく書かれています。

寅子ももちろん、納得のいかないことに「はて?」と疑問を呈しながら、様々な選択を行ってきました。
結果的に、亡くなって15年経ってからも、内縁の夫・航一さんや娘の優未を見守るという道を選んでいるのです。それはきっと、幸せな道であったでしょう。

「人が宣う地獄の先にこそ わたしは春を見る」

浄土宗では「選択(せんちゃく)」という教えを大切にしています。
「自分自身で道を選びとり、選んだ道で全力を尽くす」ことで、その道は、仏さまが守ってくれるのだ、という教えです。

「選択できる」ことが最上の幸せであると同時に、その道が間違っていたと感じたり、他によい選択肢が見えてきたら、途中で道を変えてもいいのです。
司法試験に合格しても、「選択肢を持ちながら、その道を選ばなかった」という誇りを持ち続けた涼子さま(と、心のよねさん)のように。

立場的に、寅子たちに厳しい顔をし続けた桂場さんも、最後は笑顔でお団子を食べることができました。

「虎に翼」は、「生まれた日からわたしでいた(ここが虎)」登場人物たちが、徐々に「自分の道を選ぶ」ことで「わたし(これが翼)」を取り戻し、今まで道を選ぶことのできなかった人たちに「選択肢」を増やしてあげるお話だったのではないでしょうか。

羽根を広げ、気ままに、どこまでも飛んでいく。たとえ、そこが地獄であろうと。
はるさんが言う「地獄」の先に、寅子の道はあったのです。

それでは皆さま、次の朝ドラ法話まで「さよーならまたいつか!」

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