生と死を見つめる展覧会
この世界には「絶対」ということは存在しないとされていますが、一つだけ「絶対に」と言えることがあります。
それは、「生きとし生けるものはみな死ぬ」ということです。
その「死」をテーマに5/27 ~ 6/8 まで開催されたのが「END 展─死から問うあなたの人生の物語─」。
この展覧会では様々な漫画の中から「生と死」に繋がったシーンを選び、広く取ったアンケートと組み合わせて展示し、さらに来場者によるアクションをも組み込むという参加型展覧会です。
テクノロジーの発展とともに社会の形態は変化し続け、それと共に人々の死生観も変容しています。
ぬこと、墓や葬儀の在り方、死んだ後のこと…。そんな人々の心の中にある「死」のイメージを漫画やアートを通して見つめなおすというのが本展のテーマです。
END展 全体の構成
END 展の構成は、大きく4 つのゾーンに分けられています。
ゾーン1「1.魂のゆくえ」
エントランスの横すぐの最初のゾーン「1.魂のゆくえ」では、本展を象徴するようなひとコマの、天才バカボンとバカボンのパパによる「死の予言」が来場者を出迎えてくれます。
展覧会の全体を通じる展示方法として、垂れ幕に、死に関する問いをプリントし、その下に漫画の1 シーンと、その問いに関するアンケートの答えが設置してあります(アンケート結果がない場合もあります)。
ゾーン-1 では、そのタイトルの通り、死んだ後の魂がどこへ行くのか、死後の世界や生まれ変わりに関する問いと個人の答えが展示されています。
例えば、「死後の世界であなたが信じているものはありますか?」という問いには半分以上が何らかのこの世以外の世界を答えています。
「お葬式はこれからも必要でしょうか?」という問いにはほぼ半分が必要だと答えていますが、これを多いと捉えるか少ないと捉えるかは判断の分かれるところ。
核家族化やコロナ禍など様々な要因で葬儀の形も随分と変わってきていることが可視化されたようです
ゾーン2「2. 終わりの選び方」
ゾーン2「2. 終わりの選び方」では、死の瞬間から葬送がテーマ。
「どんな葬送の方法がいいですか?」の答えでは、火葬が一番多いものの、その他にも様々な方法があり、それらを望んでいる人も実は多いというのが時世を表しているようです。
「生まれ変わってもまた自分になりたいですか?」の問いのコーナーには、透明なガラスのメスシリンダーと器の中の豆が置いてあり、来場者がYES かNO かを選び、その結果を見ることができます。
この時にはYES とNO がほぼ半々(NO が若干上)なのが意外でした。
天井から垂れ下がるひときわ巨大な垂れ幕には「死にゆく瞬間を決められるとしたら」という問いへの答えが集積されています。
それぞれ全く違うような、結局は似ているような…。
総合的な意味で人間が望むものにそれほど大きな違いはないのかもしれません。
ゾーン3「3. 死者とわたし」
ゾーン3「3. 死者とわたし」では、生者と死者の、別世界にいて絶対に触れあえない両者の関係にスポットを当てています。
生者が死者と会いたい、触れたいと思ったとき、それがVR というデジタル世界であるのか、また大地や空気や植物を通して生者は死者との繋がりを感じることができるのかということを模索したアート作品の展示もあります。
死者はどこにいるのだろうか?
どこまでが死者で、どこまでがそうではないのか?
様々な検証を通じて私たちに問いかけてきます。
ゾーン4「4. 老いること生きること」
最終ゾーン「4. 老いること生きること」では、時間の流れと並行する肉体の変質をに向き合うことで、生の中の死を見つめることに挑んでいます。
生まれた瞬間から死に向かう人間にとって、老いとは何なのか?
に対しての様々な答えがゾーン2 にあったのと同じ巨大垂れ幕に散りばめられています。
前向きなものからちょっと寂しげなものまで表現が豊かです。
そして、来場者の目を引くのは7 つの漫画のシーンがまとめられたパネル。
死を見つめることは、すなわち生きるとは何なのかという思考でもあります。
何千年も人間の中で繰り返されてきた「生きるとは?」の問いに、様々なキャラクターが彼らなりに答えています。
彼らの言葉を見ながら、自分なりの答えを探してみる人も多いでしょう。
その横、天井から垂れ下がる黒いカーテンで区切られたスペースの中にあるのは、「10 分遺言」というインスタレーションアート。
中に入ると、真っ暗な空間の中にあるのは設置された何台かのスマートフォン。
暗闇の中で光る液晶画面を見ると、そこにはカタカタと音を立てながら打ち込まれていく、子へ、親へ、家族へ、友へ、恋人への” 遺書” の数々が。
まるで、死の世界で死者の魂を覗き込んでいるような気持になります。
とても幻想的な風景です。
暗闇世界から出ると、いよいよ最後のブースです。
そこにあるのは、壁一面に貼られた大量のメモ。
これは「死ぬまでにやってみたいことはありますか?」「あなたの人生の中で、死に関する印象的なエピソードがあれば教えてください」という設問に、来場者が自由に答えるという参加型イベントコーナーなのです。
エピソードの部分では、様々な死の情景、死者への想い、悲しさ、寂しさ、戸惑い、愛情が綴られています。
読んでいるうちに、忘れられた土地が掘り起こされるように、自分の人生の中の” 死” が思い起こされて胸が詰まりました。
人間の永遠のテーマ
「死」は人間にとっては、それが自分のものであれ他者のものであれ” 恐れ” そのものです。
肉体と意識の消滅は生物にとって本能的に避ける究極のものだからです。
そして、死があるからこそ宗教は生まれたといっても過言ではありません。
仏教においても、「死」は非常に大きな重みをもっています。
人間は死を恐れるがゆえにあの世という概念を生み出し、肉体が滅びた後も善き魂は滅びず、御仏が永遠の浄土へ迎えてくれるとの願いを抱いてきました。
「死と人生」という有史以来永遠のテーマを、日本人が慣れ親しんでいる漫画を通じて鮮やかに提起したのがこの「END 展」です。
生と死のダイアローグともいえる本展の中で、新しい人生の見え方が垣間見えたような気がしました。
アーティスト
dividual inc.(ドミニク・チェン+ 遠藤拓己)«TypeTrance/Last words»(10 分遺言)大須賀亮佑+ 中根なつは+ 野島輝« 死を変換する»
マンガ家
五十嵐大介『「遠野物語」より』
諸星大二郎『すべてここから生まれここへ還って行く』
しりあがり寿『国が富士山につくったってよ』
うめ(小沢高広・妹尾朝子)『ようこそ!わたしの葬儀へ』
マンガ・コマ出典作品
赤塚不二夫『天才バカボン』
五十嵐大介『海獣の子供』
板垣巴留『BEASTARS』
市川春子『宝石の国』
岩明均『寄生獣』
ウチヤマユージ『よろこびのうた』
遠藤浩輝『EDEN ~ It’ s an Endless World! ~』
大島弓子『ダリアの帯』
岡崎京子『リバーズ・エッジ』
おざわゆき『傘寿まりこ』
オノ・ナツメ『僕らが恋をしたのは』
鬼頭莫宏『ぼくらの』
さくらももこ『コジコジ』
士郎正宗『攻殻機動隊』
たらちねジョン『海が走るエンドロール』
萩尾望都『トーマの心臓』
平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』
星野之宣『ヤマタイカ』
水木しげる『カランコロン漂白紀』
山下和美『ランド』
矢口高雄『釣りキチ三平』
よしながふみ『大奥』
ヤマシタトモコ『違国日記』
山田参助『あれよ星屑』
横山光輝『三国志』
END展 開催概要
●会期/ 2022 年5 月27 日(金) – 6 月8 日(水)
●会場/ iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズ
●住所/東京都世田谷区玉川1-14-1 二子玉川ライズ(二子玉川駅より徒歩3 分)
●開館時間/平日 11:00 ~ 20:00 /土日祝 10:00~20:00(最終日は17:00 まで)
●入場料/無料(事前予約制/ご入場にはWEB サービス「Hiraql(ヒラクル)」への登録が必要です)
●主催/東急株式会社、東急ラヴィエール株式会社、一般社団法人Whole Universe
●協力/ HITE-Media、Bunkamura、二子玉川ライズ、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)
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立正大学仏教学部卒業。東京仏教学院卒業。浄土真宗本願寺派僧侶。
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