プロレス×歌劇×仏教

7月の暑い日曜日、私は西川口駅にいました。
僧侶であり、プロレスラーであり、宝塚ファンであり、なにより「ここよりファミリー」でもある「雫 有希(しずく あき)」師が立ち上げた「キララヅカ花激団」。
その「蓮組」設立の記念公演に、トップスターとして出演するためです。

そもそもなぜ私にそんな話が来たのでしょう。
雫師がプロレスや占い、心理カウンセラーといった活動を通じて伝えてきた仏教と、私が提唱する「この世に仏教と関係のないことなどない」という若干強引な主張がマッチしたことがきっかけではないか、と思っています。
私の父が20数年前に原作を担当した『マンガ法然上人伝』を、雫師が読んでくださったことも大きかったのかもしれません。

大勢の前で法話したことはありますが、舞台に立って演技した経験など、小学生の頃までさかのぼらないと記憶にありません。
果たして、無事に大任を務められるのでしょうか…。

いざ武闘館へ

何度か稽古は行っていたものの、通し稽古は当日が初めて。
「レッスル武闘館」という施設も初めて訪れました。久々に感じる不安の中、武闘館の門をくぐります。
部屋としては、普段法話する会場の方が広いですが、なんといっても最大の違いは、真ん中にリングがあることです。
しかし、この会場なら、マイクなしでも声は通るかな、と少し安心しました。

レスラーの方々を含む、出演者たちと同じ楽屋で着替え、しばし待機していました。
身体の大きな選手もいれば、小さな女性選手もいます。物珍しさで、ジロジロと観察してしまいました。気を悪くされた選手がいたら、大変申し訳ありませんでした。

コスチューム用のスーツケースに、ホラー漫画家の「伊藤潤二」さんのイラストシールを貼っているレスラーもいました。「私もファンなんです」と話しかけたら、「お坊さんがイトジュンのファンってまずくないんですか?」と聞かれました。「こんなことが気になるのか」と思いましたが、よく考えたら、私も「レスラーにも伊藤潤二好きがいるんだ」と思ったから話しかけたので、お互い様でした。
とりあえず「いいんですよ」と答えておきました。

通し稽古を行い、流れはつかめました。
あまり時間もとれない中、今回の舞台は「読経スタイル(雫師命名)」をとり、台本を読みながら演技することになったので、セリフを忘れてしまう事態は避けられます。
それでも、そもそも「劇」であるので、客席の方を見ながら読まなければならないことも多く、難しい部分もありました。
アルバイトで協力してくれている、大正大学の仏教青年会の方々も、緊張の中だったと思いますが、なんとか、この画期的な試みを成功させようと努めていました。

稽古不足を幕は待たない

レスラーたちのアップの時間があるため、開場までの間、また楽屋で待機しながら出番を待つことにしました。
懸命にメイクしている男性コスチュームのレスラーが、女性言葉で、「ポスカでメイクするのが便利なのよ」と教えてくれました。色が目立つし、洗ったらすぐ落ちるからだそうです。

ついに開演時間がやってきました。
第1場では、法然の出番はないため、リング後ろで待機していましたが、人の演技というのはあっという間に終わってしまいます。
第2場、稽古中に「リングに上がるタイミングに注意して」と言われていたので、早めに上がろうと準備していたら、左手に数珠がかかっていません。トイレに行ったとき、左の袖の下に入れたままだったのです。

今考えれば、客席に見える訳でもないので、特に数珠の必要性はなかったのですが、初舞台なのに「普段通り」ではないスタイルで上がるのはどうなのか、という思いが働き、少し躊躇が生まれてしまいました。
結果、少し時間をかけて数珠を取り出し、若干の遅れの中、演技を進めることになりました。
無念でした。

そして終幕へ…

舞台は終わりに近づいていました。
主演である私は、セリフも多く、第2場以降は出ずっぱりのため、流れを止めないことに気をつけながら、「セリフを読んで」いました。
無事に劇を終え、リングを降りて、プロレスを堪能したあとで、最後にまた「パレード」でリングに上がった私は、お客様からの歓声を浴びながら、心で反省していました。

雫師は、京都のイントネーションを駆使しながら、アドリブもこなし、何役もの早着替えを成功させました。
他の出演者の方々も、自分の務めをしっかり果たしていました。大正大の学生たちも、台本を見ずに演技するなど、稽古の時の演技を上回ってきました。
レスラーの方々も、自分の試合もある中で大変な中、劇の雰囲気をつくり、感情を込めて演技されていました。当日に覚えなければならないこともたくさんあったのに。

通し稽古のデキを下回っていたのは、私だけでした。

プロレスは素晴らしかった

反省しながらでしたが、プロレスの試合も堪能しました。
劇中でのセリフもあった「朝陽」選手と、金髪がまぶしい「YuuRI」選手の対戦は、アクロバティックでスリリングでした。
次は(おそらく)夫婦タッグである「清水来人」選手&「YAKO」選手のコンビと、ポスカでのメイクを教えてくれた「ASUKAMA」選手&兎の仮面をかぶって登場したイケメン「香取貴大」選手のコンビの対戦。
「ポスカ&兎」のニュー・マシンガンズばりの奇襲から始まり、夫婦の愛、コンビの愛についてどちらも譲らない名勝負でした。ASUKAMA選手のメイクについて、どうなるのだろう、と勝手に不安に思っていましたが、リング上のASUKAMA選手は、「半沢直樹」に出ていた愛之助を彷彿とさせる格好良さでした。

そしてメインの「めいりぃ」選手&「ヤマダマンポンド」選手のコンビと、「定アキラ」選手&われらが「雫有希」選手のコンビの対戦。
この4人は、すべて歌劇にも出演しており、雫選手やめいりぃ選手は、結構な量のセリフもありました。
そんな中、劇を成立させたのはもちろん、リング上でも好勝負を繰り広げたのです。プロレスラーとは、なんてスゴイ人たちなのだろう。
私は打ちのめされました。本当はもっとできたのではないか、と悔やみました。
「仏教」というパートで、プロとしてきちんと伝道することができたのだろうか。
私の初舞台は、疲れと、選手への敬意と、大きな後悔に包まれながら過ぎていきました。

「法然上人物語 ~倶会一処 またいつか会える~」台本公開

当日は満員札止めでしたので、興味があったのに来られなかった方もいらっしゃると思います。
そんな方のために、今回の台本を特別に公開いたします!

第一場 夜討ち
https://drive.google.com/file/d/1HiQ6bRqSV3X239yJRjM1sKIHnZphUuKT/view?usp=drivesdk

第二場 比叡山
https://drive.google.com/file/d/1NijIUOHn2sDiXkUoGPEk555-bEM9DTRf/view?usp=drivesdk

第三場 町民の争い
https://drive.google.com/file/d/1hKCs7m5ie5VPSp4rtJ-HZ8j4qnilJYZY/view?usp=drivesdk

第四場 九条兼実邸
https://drive.google.com/file/d/1cB9XlcySg6QTTob8liEMMNG9ZWWBeN0l/view?usp=drivesdk

第五場 一枚起請文
https://drive.google.com/file/d/16RIwRpknqBNa7L33AuRJIOuNPw6nLm_s/view?usp=drivesdk

第六場 またいつか会える
https://drive.google.com/file/d/1WeF1HL1dlqJJpGOvRdWKj_F9XFkpd9C-/view?usp=drivesdk

また「蓮組」の公演がある時にはお知らせいたします。
その時には、ぜひ、私こと佐山の成長と、キララヅカ花激団の素晴らしい舞台を、楽しんでください!

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