ファイナルファンタジーX(FF10)から葬儀を考える

私は少年期にジャンプ黄金時代を過ごしましたが、それは同時にファミコン黄金時代でもありました。

私と同年代の方はそこからスーパーファミコン、プレイステーションやセガサターン、次世代機、あるいは外に出ればアーケードゲームと、まさにゲームとともに成長してきたという方も少なくないのではと思います。

ところが昨今では常軌を逸した事件が起こると、何かにつけて「ゲームのせいだ」「なんでもリセットボタンで解決するクセがついている」などとゲームが批判されます。

たしかに映画などと同様に、顧客の興味をひくために過度な演出を用いたものも多くありますが、私の世代はゲームからたくさんのことを学んできました。

思えば私が初めて「大切な人を失う」という経験をしたのは、ドラゴンクエストとともに日本で最も有名なRPGシリーズ「ファイナルファンタジー(略してFF)」の2作目、ファイナルファンタジー2(以下FF2)の中でした。

私にとってRPGを含め、それまでゲーム内での死はあくまで仮のものであり、それこそリセットボタンを押したり復活する呪文を唱えたりすれば元通りに元気になるというものでした。

しかしFF2ではそれまで主要メンバーの1人として活躍していた、とあるキャラが突然仲間を守るためにその生命を終えてしまいます。

当時小学生だった私はそのキャラをとても気に入っており、かなりの時間を割いて大切に育てていましたので、その出来事が起きて呆然としました。

まさにリセットボタンでは取り返しのつかない、画面越しの喪失体験でした。少し大げさに言うならば、お寺に生まれた私が初めて「無常」を実感した瞬間だったかもしれません。

このコラムでは時々、こうしたゲームのお話にも触れていきたいと思います。

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今回は先述のFFシリーズの中から屈指の人気を誇る10作目、ファイナルファンタジーX(以下FF10)を題材にして前編と後編にわたりお話をさせていただきます。

前編では

< FF10で葬儀を考える >

というお話です。

FF10では主人公であるティーダという青年が突然異世界へ飛ばされるところからストーリーが始まります。

飛ばされた世界には「召喚士(しょうかんし)」という役目の女性ユウナがいて、世界中でハリケーンのような天災を巻き起こす「シン」と呼ばれるモンスターを倒そうとしていました。

ティーダはシンを倒す旅に同行することになり、その旅の中で自分の運命を知ることになります。

この召喚士という職業は、シンを倒すための召喚獣を呼び出すという重要な役目があるのですが、興味深いことにいわゆるお坊さんのような、死者を弔う役目も持っています。

シンがやってきて多数の死者が出たシーンでは「異界送り」というお葬式のような儀式を行なって死者を弔います。じつはこの異界送りという儀式も、ストーリーの中では重要な意味を持っていますが、こうしたファンタジーゲームの中に葬送儀礼が登場することは大変興味深いことです。

この「異界送り」の役割は、死者の肉体から「想い」を解き放ち、死者の魂を異界へと送り届けることとされています。

さらにもうひとつの重要な役割としては、弔いの儀式を行うことで残された遺族や縁のある人たちの心をいたわり慰めることがあります。

そういう点においてFF10の召喚士は現実世界のお坊さんと似た役割を担っていると言えます。

そして、この儀式を通して大切な人を亡くした人たちの悲しみに触れ、召喚士たちは「シン」を倒す決意を新たにしていきます。

現代における葬儀もまた、亡き人を仏さまの世界へとお送りする儀式であると同時に、残された人たちに寄り添い、その喪失・悲しみをともに癒していくという役割を担っています。

FF10ではこの異界送りの儀式を初めて行なった召喚士ユウナが涙を流してしまい、仲間に「次は泣かないようにね」と言われ

それを見たティーダは「次なんてなければいい」とつぶやきます。

葬儀は悲しいものですが、亡き人を送り、残された人が死を受け止め受け入れていくために大切な儀式と思います。葬儀は亡くなった人のためだけに行うのではなく、これから生きていく人のための儀式でもあるのです。

異界送りを行うことで人々と苦悩をともにして、自らもまた悩み苦しみながら、シンを倒すことで世界中の苦しみ、悲しみをなくそうと考えたティーダたち。

その姿は私たちにたくさんのことを教えてくれるように思います。

<後編へ続く>

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