敷居が低く、誰でも駆け込めるお寺

師走のある日、私は東京四谷にいました。

数年ぶりに、「坊主バー」を訪ねるためです。

以前、目黒で住職をしていた頃に、何度か取材させてもらった事がありましたが、忙しさにかまけて、しばらくご無沙汰をしていました。

「ここより」に籍を移した報告を兼ね、というのはほぼ方便で、久しぶりに夜の街を堪能するべく、数名を誘って、開店直後の19時すぎに到着しました。

お線香が香る店内

入り口には「檀家制」とありますが、「会員制」のシャレなので、気にせず入店します。

ドアを開けると、ほのかに香る線香の匂い。カウンターと数席のテーブル。そして目を引くのは、天井一面に貼られた書道の半紙と、店の奥にある大きな仏壇です。

数年ぶりのご無沙汰でしたが、マスターは私の顔を覚えてくださっていました。

マスターはお坊さんでもありますが、もちろん水商売のプロでもあるのです。

おかげさまで、久しぶりの挨拶や営業活動もそこそこに、飲み始めることができました。

私たちが最初の客でしたが、すぐに若者の団体や、女性グループなどが来店し、あっという間に満席になりました。

カクテルやツマミも多彩

まずはビールで乾杯してから、坊主バーオリジナルのカクテルを頼みました。

カラフルな色合いで極楽を表現した「極楽浄土」
あの「ミロ」で焼酎を割った「ミロク菩薩」
緑色が鮮やかな「沙羅双樹」
瀬戸内海の塩をふんだんに使った「寂聴」などなど

もちろんその他にも「般若湯」と呼ばれる日本酒など、たくさんのお酒があります。

以前よりもパワーアップした印象を受けました。

アテはツマミが中心ですが、ピリ辛の「雷コンニャク」や「生麩のゴマ油炒め」などの精進料理が味わえます。「大徳寺納豆」や「とろろ雑炊」もあるようです。

お通しでは、蕎麦のスナックが出てきました。相変わらず雰囲気のいいお店です。

法要が始まった

しばらく酒と会話を楽しんでいると、マスターがおもむろに奥の仏壇に向かい、読経を始めました。

騒がしかった店内が静まり、満席の客たちが、全員で耳を傾けます。

浄土真宗のマスターが称えるお経は、浄土宗である私も知っていましたので、声を合わせていきました。酒で火照った心が、自然と落ち着いていくような気がしました。

読経のあとは、マスターから法話がありました。

笑いを交えた、お寺でのクリスマスのエピソードは、若者の団体の心もがっちり掴んでいました。

法話のあと、颯爽とバーカウンターの中に戻り、通常業務を始めたマスターが、神々しく見えました。

四谷荒木町の夜はふけてゆく

営業と取材のつもりでしたが、ずいぶんと深酒をしてしまいました。

会計を済ませて表に出ると、静かな街並み。

ここ、四谷荒木町は、明治時代には花街として栄えていたそうです。

今でも、坊主バーのある車力門通りには飲食店が並んでおり、当時の風情が垣間見えます。

冷たい風が吹いていましたが、温かい心で帰路につきました。

近いうち、また心を洗いに来たいと思います。

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