現在、東京国立博物館にて特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」が9月12日まで開催されています。

今回の特別展の主役である《十一面観音菩薩立像》は奈良の聖林寺が所蔵している国宝で、「天平彫刻の逸品」「日本彫刻の最高傑作」とも謳われています。

この仏像が奈良県から出るのは今回が史上初となります。

十一面観音像が作られたのは八世紀、奈良時代です。

日本最古の神社と言われる大神(おおみわ)神社の神宮寺(神仏習合の時代に神社の中につくられた寺)であった大御輪寺(旧大神寺)の本尊としてつくられました。

大御輪寺にいたときは秘仏として大切に保管してありましたが、明治元年に神仏分離令が発令された後、大御輪寺の仏像たちはそれぞれ他の寺に移され、十一面観音像は聖林寺に行くことになりました。

しかしこの特別展で、大御輪寺に安置されていた仏像たちが約150年ぶりにて東京の地で再び巡り合うこととなったのです。

《国宝 十一面観音菩薩立像》は奈良時代に盛んであった木心乾漆(もくしんかんしつ)造りという技法でつくられた高さ209.1センチの像です。

木心乾漆造りは木で像の大まかな形を取り、その表面に木屎漆(こくそうるし)を盛り上げて細部を形成していくというやり方です。

指や天衣など細かい動きのある部分は鉄線を入れて形をつくります。

技法上、丸みを帯びた曲線的な仕上がりになるのが特徴です。

聖林寺の十一面観音像も全体として滑らかな曲線のシルエットによって優美で柔らかな印象を受けます。

威厳溢れる堂々とした立ち姿ですが、張りのある肌感とメリハリのある豊かな体の線をしています。

十一面観音像の纏う天衣のドレープは淀みなくしなやかで、まるで天上界に流れる清流がそのまま天衣となり、観音様の周りを人間の踏み込めぬ清らかな空間にしているようです。

立像ですが腕から垂下する布やたおやかな指先が動きを出し、みずみずしい生命感を生み出しています。

聖林寺では前面からしか拝めませんでしたが、今回の展示では360度どこからでも像を見ることができます。

同室にはかつて同じく大御輪寺にあった《国宝 十一面観音菩薩立像 光背残欠》や《国宝 地蔵菩薩立像》、《日光・月光菩薩立像》なども展示されています。

光背は殆どが失われていますが、残された植物文様は流麗かつダイナミックで、ほとばしる生命のパワーを感じさせます。

地蔵菩薩立像は平安時代の木造の像で、江戸時代には十一面観音像と一緒に祀られていました。

お地蔵様らしい無垢な表情に見ている人々の心も安らぎます。

どっしりとしたふくよかな体格が存在感を強調しつつ、肩・腕からするりと落ちる布の表現が軽やかさを生み出しています。

奈良から令和へ1200年の時を経て我々の前に存在する《国宝 十一面観音菩薩立像》は、人間世界の重力に従いながらも囚われず、天と地の間におわしながらも衆生をずっと見守り続けているのでしょう。

仏様の慈愛はとこしえなのだと感じ入った、優しい時間を過ごさせていただきました。

特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」

●会場/東京国立博物館 本館特別5室
●会期/2021年6月22日(火)~9月12日(日)まで
●開館時間/9:30~17:00
●休館日/毎週月曜日
 ※詳細、その他休館についてはHPにてご確認ください。
●住所/〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
●電話/050-5541-8600(ハローダイヤル)
●展覧会公式サイト/https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/

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