ここより編集長、試写会へ向かう
先日、ここより編集部に、映画の試写会の招待状が届きました。
「カオルの葬式」というタイトルから、おそらく「終活」を中心とするメディアに招待状を出しているのでしょう。
「ここより」もついに「いっちょ前」のメディアだと認められたのです。
ここは当然、観に行くしかありません。
僧侶の目線から、「お葬式映画」を批評してやろう、とエラそうに思いながら、私は颯爽と試写室へ向かいました。
スポンサーリンク
あっという間に映画のトリコに
映画は、「鷲巣カオル」という女性脚本家が事故で亡くなり、遺体にエンバーミングを行っている場面から始まりました。
納棺の前に遺体を消毒し、体内の血液を抜いて外傷などを隠し、表情を整えるなどの処置を行う「エンバーミング」について、知識では知っているものの、なかなか現場を見ることはありません。
冒頭から、スクリーンに釘付けにされます。
カオルは遺言書を残しており、葬儀や遺骨の扱いについて、詳細を記していました。
10年前に別れた元・夫の横谷に、葬儀の喪主を頼むことになっていたのですが、本人はそれを知りません。
葬儀社から、突然電話でそのことを告げられた横谷は、とまどいながらも東京から岡山県北部にある寺院までやってきます。
そこには、カオルが遺した9歳の一人娘、薫がいたのです。
デリヘルの運転手をしている横谷は、元々、売れない役者をやっていました。
カオルとはその頃に意気投合し、結婚し、離婚します。
カオルの娘である薫は、誰との子なのか、わかりません。
しかし、カオルの死や、遺体、そしてお互いのもつ「カオルとの記憶」によって、横谷と薫は、徐々に心を通わせていきます。
私は既に、僧侶ではなく、いち観客になっていました。
スポンサーリンク
亡くなった人とも、縁はつながっている
横谷は、葬儀の喪主を断ることもできたはずです。カオルが遺書で勝手に指名しただけだからです。
でもきっと、さまざまなカオルとの思い出や、共に過ごした時間のことが頭に浮かび、別れの儀式のために引き受けたのでしょう。
娘の薫にも、カオルとの9年の思い出があります。
10年前に別れた横谷とは重なっていませんが、薫の中にも、カオルは残っています。
カオルという女性は亡くなってしまいましたが、カオルがかつてそこにいて、さまざまな人と関わったことは、なくならないのです。
同業者のライバルも、マネージャーも、プロデューサーも、アルバイトの同僚も。
カオルと関わった全員の中に、カオルは生きています。
仏教では、「人は、生きとし生けるものすべてとの縁によって、生かされている」と考えます。
亡くなった人とも、縁はつながっています。それぞれの心の中で、生きているからです。
現に、カオルとの縁によって、横谷と薫は出会いました。
「今日はいい日」と、よく口に出して言っていたカオルが、二人の「いい日」を作ったのです。
スポンサーリンク
きちんと描かれる「お葬式」の意義
「カオルの葬式」では、「出立ちの膳」や「野辺送り」、そして「釘打ちの儀」など、現在の東京ではほとんどみられなくなった儀式の場面も多く出てきます。
お通夜を行わない場合も増えたので、作品内のような、通夜ぶるまいの席で事件を起こす人もいなくなりました。
カオルに嫉妬していた脚本家が行った、遺体に対しての行為も、今ではもう不可能に近いでしょう。
宮型の霊柩車も、都内で見かけることはなくなりました。
「お通夜」や「お葬式」が、「人とお別れする儀式」としてきちんと描かれているという意味でも、この映画の意義は深いと思っています。
「お葬式」は、亡くなった人とのお別れの儀式でもありますが、「その人とのつながりを再確認する」ことでもあります。
自分が、その人のことを覚えている限り、縁はつながり続けます。
カオルが亡くなったことを「因果応報」だと言った、カオルに嫉妬している脚本家には、出棺のときに、ちょっとした罰があたりました。
まさしく「因果応報」であり、これもまた「縁」のうちなのです。
スポンサーリンク
映画「カオルの葬式」概要
2024年11月22日(金)より 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
出演
関 幸治 一木 香乃 新津 ちせ
足立 智充 田中 モエ 滝沢 めぐみ 川島 潤哉 蔵本 康文 木村 知貴 大岩 主弥 錫木 うり
黒沢 あすか 原田 大二郎
プロデューサー:シモエダミカ
アソシエイトプロデューサー:福武 孝之
脚本:西 貴人
監督・共同脚本・プロデューサー:湯浅 典子
音楽:ジョアン・ビラ
共同プロデューサー:江部 亮 ジャスティン・デイメン 久松 猛朗
撮影監督:ビクター・カタラ
照明:ポール・ピーティクス
録音・整音:紫藤 佑弥
サウンド・エディター:ギエルモ・ルーファス
オフライン編集:マルク・ミチャ 河村 信二
カラリスト:デイヴィッド・アヴェシラ
美術装飾:遠藤 雄一郎
ヘアメイク:平林 純子
スタイリスト:天野 泰葉
製作/制作プロダクション:PKFP PARTNERS
宣伝配給:ムービー・アクト・プロジェクト PKFP PARTNERS
© PKFP PARTNERS LLC.
映画「カオルの葬式」公式サイト
https://yuasan1203.wixsite.com/pkfppartners
関連記事【編集部から】
国内初!お墓のテーマパークがオープン「現代墓所墓石テーマパーク」
いま、お寺が「樹木葬」を導入する意義とは? (株)アンカレッジに聞いてきました!
第2回「宗教メディアサミット」のダイジェスト動画が配信開始!
自分で道を選んだその先に「わたし」はいる|お坊さんによる【「虎に翼」法話】
映画「カオルの葬式」試写会を僧侶目線でレビュー|11/22より全国公開!
立正大学仏教学部卒業。東京仏教学院卒業。浄土真宗本願寺派僧侶。
宗教の基礎知識、心のサポート、終活のサポートなど、こころのよりどころとなる情報を楽しくわかりやすく発信します!