北海道の片隅にある小さなお寺・仁玄寺(にんげんじ)には、
誰かにとっての大切な1 冊ばかりを集めた本棚があります。
「あなたの『とっておきの1 冊』は、どんな本ですか?」
そんな問いから始まる、本と人生とを巡るインタビュー、お楽しみください。
『私のいるところ』新潮社,2019,著:ジュンパ・ラヒリ,訳:中嶋 浩郎
お勧めしてくれたのは、私のテンプルモーニング( お寺の朝そうじ https://www.templemorning.com/ )仲間である、小関優さんです。
(※詳しいプロフィールは文末をご覧ください)
生活のなかの心の機微と、孤独を書いた小説
主人公は、ある都市で生きる45 才の女性。
日常生活のなかの細やかな心の機微と、その根底にある孤独を描いた小説です。
日記のように平易な言葉で46 篇が並列的に綴られており、短編集として読むこともできま
す。
そこにあるのはひとりの女性の暮らし、誰もがもつ小さな物語です。
作者のジュンパ・ラヒリは、ベンガル系の移民として2 歳からアメリカで育ち、生まれや言
語についての意識が彼女の創作に大きな影響を与えています。
そして出版レーベルは、わたしのとても信頼している、新潮クレスト・ブックス( https://www.shinchosha.co.jp/crest/ )です。
装丁や手ざわり、たたずまいが素敵です。
ぜひ手にとってみてください。
本を開くと、ラヒリに会える
この本を読むと、ほっとするんです。
たとえば、今開いた「自分の中で」(p.82)という章。
これはストーリーではなく、しんどい朝の心のうごき。
多くの人が感じたことのあるモヤモヤや、ひとりで沼に沈み込んでいきそうな感覚を、鋭く平易な言葉で語ってくれています。
こういう心のありようを言葉にしてくれることに「ありがとう」と思うんです。
また、同じ章に「喜びを運ぶというこのいちばんすてきな言葉のことを思っていればだいじ
ょうぶ」という主人公の想いが書かれています。
とても些細だけど、その人にとってものすごく大事な、《心のおまもり》のようなものに光
を当ててくれている。
こういう描写から、作家への信頼や対話が生まれます。
わたしは作者の温度を感じられる文章が好きなんです。
そしてこの本には、ラヒリの孤独がそのままある――本を開くと、孤独を抱えた人として「ラヒリがここにいてくれる」――感覚があります。
なので、本棚の見やすいところに、それこそ《心のおまもり》のように置いておき、つらい
時にパラパラ読んでは、「わたしだけじゃない」という安心感をもらっています。
★こんな人におすすめ
ふと「独りだな」と感じてしまう人
帯のコピー(下記)を「いいな」と思う人
★とっておきのコピー
「その孤独が、いつか
背中を押してくれる」(帯より)
★この本を紹介してくれたのは…
小関優 さん
「言葉」について考えています。その人からどうあらわれるのか、こぼれるものは何なのか。
あいまいなもの、とどまらないものを、言葉であらわすことはできるのか。
わたしにとって文学は、本をひらけば作家たちに会えるおまもりです。
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高野山真言宗仁玄寺副住職。“大切な人と死別した子ども”を支える市民団体「グリーフサポートSaChi」の事務局員。宗派を超えた道内寺院関係者の集い「てらつな」運営にも注力。