目次
また、溝の口へ
12月某日、私は再び溝の口にいました。
9月に行われた、例の講義の第2回に向かうためです。
前回のようす
https://coco-yori.com/News/view/sayama_takuro/11383
前回、港北地区を担う若手のお坊さんたちから好評をいただいてしまい、若干調子に乗りながら、会場の寺院に到着しました。
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「サブカル法話」をやってみよう
まずは前回のまとめから。
「仏教離れ」という現状を打破するため、おカタい法話もいいけど、「自分が好きなこと」から仏法を伝えてみませんか、ということをお伝えしました。
軽い話題を仏法につなげて法話することは、一見気軽に見えますが、実はとても責任の重い行動です。
「よかった」という感想も増えますが、「チャラい」とか、「変わったことで人集めをしても、残るものなどない」という批判を受けることも多くなるため、きちんと仏道に裏打ちされた法話であることを示さなければならないのです。
「サブカル法話」をするには、そもそもの仏道修行を、地道に重ねていくことも必要なのです。
サブカル法話「実践編」
私はよく、「六波羅蜜(ろくはらみつ 大乗仏教において菩薩に課せられた6つの修行)」を、「ジャンプ三原則」を使って説明します。
六波羅蜜とは、
布施(惜しむ心をなくし、分け与えること)
忍辱(怒りやすい心をおさめ、耐え忍ぶこと)
持戒(戒律を守り、行いを正しくすること)
精進(怠る心をなくし、努力すること)
禅定(散りやすい心を静め、心を安定させること)
智慧(6つの修行の総合 愚かな暗い心を明るくしていくこと)
このような6つの修行のことですが、これをジャンプ三原則に当てはめると
「友情」→「利他(他者への思いやりや施し)」→「布施」
「努力」→「自利(自己を高めていく行い)」→「忍辱」「持戒」「精進」
「勝利」→「解脱(利他・自利の総合 最終的に目的とするもの)」→「禅定」「智慧」
となります。
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「友情」は、人のために自らを差し出すこと
『北斗の拳』で、自らが犠牲となり、ケンたちをシェルターに逃がしたトキ。
『魁!男塾』で、飛燕を励ますために自分の胸に「闘」の字を刻んだ富樫。
『聖闘士星矢』で、弟のために、代わりにデスクィーン島へ行った一輝などの名前が浮かびます。
『キャプテン翼』の石崎くんは、翼くんや岬くんほどサッカーが上手い訳ではありませんが、ここぞとい場面で日向くんのシュートに顔面から飛び込み、失点を防ぎました。
自らが傷つくことをおそれず、その場でできる最大のことを行ったのです。
この行動こそが「布施」なのです。
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「努力」は少年マンガの王道
『SLAM DUNK』で、2万本のシュート練習をした花道。これは「精進」です。
また、全国を賭けた陵南戦の前に、花道の練習につき合ったメガネ君の行動は、先ほどの石崎くんと同じく「布施」の行為でもあります。
花道が上手くなるということは、メガネ君の出番の減少を意味します。それでも、チームのために練習につき合ったメガネ君は、素晴らしい副主将なのです。
『DRAGON BALL』に登場する「精神と時の部屋」は、自らを高めるために修行する部屋。こんなに「精進」に適した部屋もないでしょう。
空気がやや薄く、重力の負荷がかかり、景色もなにもない空間で行う修行は「忍辱」そのものでもあります。
『キン肉マン』に出てくる「完璧超人」は、下等超人のマスクを剥ぎ取ることで、超人を怒らせます。怒りのパワーを外されると超人は脆く、実力者だったロビンマスクやモンゴルマンなどは、完璧超人の前に敗れてしまいました。「持戒」「忍辱」の心が少し足りなかったのです。
『るろうに剣心』に出てくる剣術流派「神谷活心流」のモットーは「人を活かす剣」。相手を殺すのではなく、制することを極意とする剣術です。まさに「持戒」の剣といえるでしょう。
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「勝利」のために心を静める
『DRAGON BALL』に出てくる「占いババの館」で、クリリンは、トリッキーな相手の攻撃や周りのヤジで心を乱して敗れました。「禅定」の心を忘れた結果です。
逆に『SLAM DUNK』の山王戦で、3ポイントシュートを決めまくった三井は、赤ん坊のように周りを信頼することで精神が安定しました。「もうオレには、リングしか見えねえ」状態になったのです。
『キン肉マン』で、悪魔将軍を倒すための新技「キン肉ドライバー」を完成させたスグルですが、試合になるとなかなか技に入れませんでした。その後ピンチに陥りますが、ピンチであるがゆえに、無心で技を放った結果、無事にキン肉ドライバーが決まります。
『幽☆遊☆白書』の「禁句」のエピソードで、一番最初にやられたのは、挑発にのった飛影でした。「戦闘能力で負けていない」という自信から、心を乱してしまったのです。
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浄土宗の神髄は「選択」にあり
法然上人は、当時、富裕層やインテリ層にしか届いていなかった仏教を、弱い立場の人にも届けるため「庶民のための念仏の道」を選びとりました。
「選択(せんちゃく)」とは、自分で道を選びとり、その道で全力を尽くすことです。自分で選びとった道は、仏さまが守ってくれています。
朝ドラ「らんまん」の主人公、万太郎は、学歴がなく苦労したものの、まわりの圧力に負けず、植物学者への道を選びとり、図鑑を出版するに至ります。
テレビゲーム「ドラクエV」では、プレイヤーである主人公が「結婚相手を選ぶ」という重大な選択を迫られます。
発売から30年以上経った今でも話題になる「ビアンカ・フローラ論争」ですが、論争するよりも、自分自身が選んだ相手と幸せに過ごすことの方が大事なのです。
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過去から未来へつながる「共生」
浄土宗では「共生(ともいき)」という言葉を大事にしています。
「今あるすべての命の繋がりを大切に」という教えです。ここで大事なのは、現在を生きる横のつながりに加え、過去から未来へと繋がっていく命のことも大事にしていることです。
野球で、1番打者から9番打者までの繋がりのことを「打線」と呼びますが、それは、前の打者の思いを受け取った打者が、次の打者のために全力で、できることを行うことで「線」となっていくからです。
大谷翔平選手がメジャーでMVPをとりましたが、野茂やイチローといった先人たちがメジャーへの道を切り開かなければ、メジャーへの道はなかったかもしれません。
そもそも「プロ野球」の歴史の積み重ねがなければ、大谷翔平も山本由伸も出現しなかったかもしれないのです。
それはとても「有難い」こと。つまり「当たり前」ではないのです。
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歌にも仏教の教えは隠れている
中島みゆき「糸」
「縦の糸はあなた 横の糸は私 織りなす布はいつか誰かを温めうるかもしれない」
釈尊の「この世の中は、すべて縁でつながっている」というおしえを歌っています。
Mr.Children「くるみ」
「あれからは一度も涙を流してないよ でも本気で笑うことも少ない」
仏教は「欲」を捨てる教えだと誤解を受けがちですが、持っているべき「欲」まで捨ててしまうと、「生きる悦び」までなくなってしまいます。
「欲」が強くなりすぎると「執着」という苦しみになってしまいますが、持っているべき「欲」もあるのです。
AKB48「恋するフォーチュンクッキー」
「ツキを呼ぶには笑顔をみせること」
言わずと知れた「和顔愛語」という「無財の七施」のひとつを表しています。
☆まだまだ掘れる、サブカルの「沼」
講義では、まだまだ別の話もしましたが、ここまでとします。
「死」や「老い」、「病」をテーマとした作品も多い「手塚治虫」作品や、常に登場人物がイキイキと動いている「ちばてつや」作品からも、仏教の学びは多く感じとることができます。
今後お寺は、「檀信徒の仏事」「墓地の管理」以外にも、「人の苦しみ」に寄りそうという役割を負っていくことが求められてきます。
そのときに、僧侶ができるだけ「親しみやすい存在」であるために。
僧侶が「好きなこと」から仏教を伝えてみませんか。
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浄土宗僧侶。ここより編集長。大正大学卒業後、サラリーマン生活を経て、目黒の五百羅漢寺へ転職。2014年より第40世住職を務めていたが現在は退任。ジブリ原作者の父の影響で、サブカルと仏教を融合させた法話を執筆中。