一ヶ月延期して九月発売予定に

七月になりました。
みなさん、いかがお過ごしでしょうか。
猛暑どころか酷暑が続きました。それからいくぶん、涼しくなりましたが、それも場所次第。アスファルトの照り返しが激しい都会は、「いくぶん」なんてものはまさに「焼け石に水」のようですね。

どうぞ、ご自愛ください。
さて……。

「予定通りにいかないのが予定である」

なんて弁明から入るにはわけがありまして。
来月発売予定だったこの本ですが、一ヶ月延期しました。そして、発売日は未定。
いやいや、サボっていたのではないですよ。一所懸命やっていたのですが、物事には段取りもあり、人間には都合というものもあり、なかなか思うようにはいかないものです。
ということで、日本橋出版さんから発売される予定の本書、今しばらく、こちらの紹介記事でお楽しみください。

さて、京都養徳院さんに続いて登場するのは、大雄院の石河和尚です。

実際に、妙心寺山内でも、こちらの二つのお寺はお隣さんです。同じ臨済宗、妙心寺山内、しかも隣接しているお寺同士ですが、人が変われば視点も変わります。入口が変われば、お話の内容も変わります。仏の教えは、多様性そのものを現わしていますね。

石河和尚と題材にした昔話は、これまた知名度抜群の『笠地蔵』です。まずは、石河和尚にとって『笠地蔵』がどのようなものか、お聞きしています。

笠地蔵を象徴するものは?

横江和尚

私の生まれは、島根の山奥にあるお寺でした。その地域は、県下随一の豪雪地帯なのです。ですから、『笠地蔵』の風景が、まさに私が過ごしていた日常と重なるのです。雪に包まれた年末、六地蔵。月明かりの夜。おじいさんおばあさんが住んでいたような家。寒さと貧しさ。これらが私にとっては、近しいものだったのです。

大竹

『笠地蔵』の世界の背景には、寒さと貧しさがあります。しかし、不思議なことに、憎しみや悲しみではなく、喜びが溢れてきますね。おじいさんおばあさんと、お地蔵様たちが登場人物ですが、読んでいるこちらがしあわせになる物語です。

横江和尚

街からの帰り道、「お地蔵さんたち、寒かろう。雪がかからないようにしてあげましょう」と、五人のお地蔵様には笠を、一人のお地蔵様には自分がまいていた手ぬぐいをかぶせてあげますね。

大竹

笠地蔵のおじいさんは、自分の手ぬぐいを差し出しています。手ぬぐいって、ちょうどよい塩梅になっていますね。

横江和尚

使い古したボロの手ぬぐいでも、おじいさんにとってはとても大切なものだったでしょう。しかし、それはお地蔵様に渡すことができるものだったんです。その結果、お地蔵様たちがどのように思うかは、おじいさんは考えていません。即座に、パッと動いたんです。「あれ、笠が足りない。じゃあ手ぬぐいだ」って、ここにためらいや不安などありません。

使い古されたボロの手ぬぐい

『笠地蔵』といえば、当然「笠」。そりゃそうですよね。だってタイトルに「笠」とあるのです。わたしたちは、「目にしたものを見たと思う」のです。しかし、情緒や風情は、目にし難いものの方にあることが多いのです。

お礼をしにきた六人のお地蔵さんたち。その内、一人だけ手ぬぐいをかぶっています。
イラストにするとしたら、あなたは、この六人のお地蔵さんをどのように描き分けますか?ぼくには、この手ぬぐいをかぶったお地蔵さんが、他の五人のお地蔵さんよりも、大きな笑顔でいるように感じています。

あるいは、あなたがおじいさんだったら、最初に目に止まるのは、どのお地蔵さんだったでしょう?
きっと、手ぬぐいをかぶったお地蔵さんですよね。

笠は、売れ残りですが、新品です。手ぬぐいはボロボロです。
なぜ、手ぬぐいのお地蔵さんの笑顔が、一番でっかいのでしょう?

「心が届く」
「心で触れ合う」

こんな答えが出てきました。

物を大切にすることは心を大切にすること

現代は、モノが溢れた時代になりました。安価で使い勝手のいいものが、毎日新登場しているくらいです。買おうと思えば、なんでも手に入ります。なんでも安く手に入るから、使い古す前に、そのモノは新しいモノに取り替えられてしまうでしょう。
でも、いま、ちょっとあなたの周りを見回してください。

あなた自身を象徴するような、人生をともにしてきた物はありませんか?
ぼくなら、万年筆と帽子でしょうか。一番古い万年筆はモンテグラッパの青いもの。三十代でまた大学に戻ったとき、当時お付き合いしていた女性と一緒に伊藤屋に行き、遭遇しました。しかし、現金が不足していたので、後からインターネット上の文房具屋を探して、購入したものです。
大切にしていた物がある。思い出は、それらを通して蘇ってきます。

もし、その物を誰かに譲る時、あなたはきっとこう思うはずです。

「大切に使ってね」

この言葉はそのまま、物と一緒にその方に渡され、そして受け継がれていくでしょう。物を大切にすることは、心も大切にすることです。

さて、「大切にしてね」、とともに受け継がれる物が、随分少なくなりました。このような世界は本当に、豊かなのでしょうか。むしろ、『笠地蔵』の世界より貧しくなってしまったのかもしれませんね。

大雄院の石河和尚の次回のお話は、「遊び」をテーマにしますよ。

『ツッコミ!日本むかし話』出版されます

七月には、『ツッコミ!日本むかし話』という本が、自由国民社さんから出版されます。どうやら自分、日本昔話の伝道師になっているようですね。
いずれ、みなさんのお近くのお寺でも、日本昔話を使ったイベントや教室が開かれると思います。どうぞ、期待ください。


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