特別展「最澄と天台宗のすべて」レビュー ここより編集部員が行く】

現在、東京国立博物館 平成館にて伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」が開催されています。

767年に生を受け、15歳で得度、20歳で僧侶となり、後に日本天台宗の祖となった伝教大師最澄は、現代までつながる日本仏教史上の伝説的名僧です。

今回の展示では6つの章に分けて、日本各地の博物館や天台宗諸寺院等から集められた書跡・絵画・仏像などの貴重な文化財を鑑賞しながら、最澄及び天台宗の歴史を紐解いていくことになります。

特別展「最澄と天台宗のすべて」レビュー①

第1会場に足を踏み入れ最初に目に入るのは、琵琶湖から見た比叡山のパネル。日本天台宗を象徴する雄大な写真です。

最初の作品は国宝「聖徳太子及び天台高僧像」(兵庫・一乗寺蔵)。

日本に仏教を広め、特に『法華経』を大切にした聖徳太子、大乗仏教の礎を築いた龍樹、中国天台宗の祖智顗、智顗の師である慧思(聖徳太子の前生とも言われる)、そして最澄など、インド・中国・日本の天台ゆかりの重要人物が描かれている十幅で一つの肖像画です。

この中でも最澄は特に色白に描かれており、後に最澄の弟子となる円仁の記録によると、実際最澄は色白で高身長の美男子だったそうです。(原品の展示期間は各幅ごとに異なります。)

そして、現存する唯一の最澄直筆の手紙が国宝「尺牘(久隔帖)」(奈良国立博物館蔵/展示期間:10月31日(日)まで)です。

弟子の泰範に送ったもので、手紙の内容だけでなく筆跡など見ても最澄の飾らない誠実で素直な人柄が伝わってきます。
いわゆる「美術展」と少し違う印象を受けるのは、全体的に書跡が多いところです。

例えば最澄が唐から日本へ持ち帰った法具や聖教などの目録、弟子達の書や平安時代に『法華経』を写すことによって功徳を得ようと考えた貴族たちの写経、果ては三筆と言われた嵯峨天皇の書もあり、天台宗の成り立ち・発展を追うことができるまたとないチャンスです。

薬師如来立像 特別展「最澄と天台宗のすべて」レビュー②

そして最澄といえば、薬師如来像です。

最澄は僧侶になったあと、導かれるように比叡山に入山し、草庵を建ててそこで薬師如来像を自刻しました。

魂を削るようにして刻んだ薬師如来像は、絶対秘仏として今も根本中堂の奥深くに納められています。

最澄と天台宗を語る上で根幹となるのがその薬師如来像なのです。

その像に似せて作られたと言われている重要文化財「薬師如来立像」(京都・法界寺蔵)も展示されています。

目にすることができない最澄秘仏の姿をイメージすることができる重要な像です。

近くに寄って見てみるとわかるのですが、着衣に截金細工が施されており、驚くほど繊細な細工には目を瞠るばかりです。
その他にも日本各地から集められた天台にゆかりのある仏像が集結し、展示されているのが圧巻です。

展覧会初出展の「慈恵大師(良源)坐像」(東京・深大寺蔵)、運慶の系譜をひく仏師によって作られた重要文化財「慈眼大師(天海)坐像」(栃木・輪王寺蔵)、その他にも通常は見られない秘仏が公開されています。

最澄の言葉 特別展「最澄と天台宗のすべて」レビュー③

また、本展内で唯一撮影可能となっているエリアが、比叡山延暦寺の総本堂「根本中堂」再現展示です。

実際の根本中堂では参拝者は中陣までしか入ることができないので、再現とはいえ神聖な堂内とほぼ同じ場所にこれだけ近づけるチャンスはありません。
内陣に入ったような気分を味わってみてください。

本展はとにかく怒涛のような天台宝物の連続で、とても紹介はしきれないのですが、その中で心に残ったことを一つ。

今回の展示で、一番最初の展示会場にて最澄の言葉がいくつか天井から下げられていました。

そのうちの一つに「国宝とは何物ぞ。宝とは道心なり。道心ある人を名づけて国宝となす」という言葉があります。

最も大切なものは、悟りを求めて歩む心であると伝教大師最澄は言い残したのです。

最澄は「『法華経』こそ完全円満な究極の教え、即ち円教である」という中国天台大師智顗の教義を元に日本天台宗を開きました。

この世の全ての存在に仏の素質があることを説く『法華経』をいつも心に掲げた最澄は、命を持つものの中には仏性が有り、生きとし生けるもの全ては宝なのだと思っていらしたのではないでしょうか。

織田信長による焼き討ちによって、比叡山にあった重要な書や仏像の殆どは焼失してしまいました。

しかしそれでも現在これだけの書画像が残っているのは、ひたすらに復興を願った天台の僧や権力者の尽力によるものです。最澄が灯し、根本中堂で今も灯され続ける「不滅の法灯」のように、燃える魂は引き継がれ、現在も失われることなく、まばゆく熱く輝き続けているのです。

最澄と天台宗の雄大な歴史を体感できる、またとないこの機会をお見逃しなく!

開催情報 特別展「最澄と天台宗のすべて」

●展覧会名/伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」
●会場/東京国立博物館 平成館
●会期/2021年10月12日(火)~11月21日(日)
●開館時間/9:30~17:00
●休館日/毎週月曜日
●住所/〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
観覧料/【前売日時指定券】一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円
【当日券】一般 2,200円、大学生 1,400円、高校生 1,000円
※本展は混雑緩和のため、事前予約制(日時指定券)を導入します。入場にあたって、すべてのお客様は日時指定券の予約が必要です。
「前売日時指定券」、「当日券」の詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。
※ご予約不要の「当日券」を会場にて若干数ご用意しますが、ご来館時、「当日券」は販売終了している可能性があります。
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。ただし、「日時指定券」の予約が必要です。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
※展示作品、会期、展示期間、開館日、開館時間、観覧料、販売方法等については、今後の諸事情により変更する場合があります。
最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。
※会期中、一部作品の展示替えを行います。
●電話/050-5541-8600(ハローダイヤル)
●展覧会公式サイト/https://saicho2021-2022.jp/

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