「あだ名」は格好いい

中学生の頃、『水滸伝』という物語に熱中した。目の前の困った人や、弱い立場の人を救うために、長いものに巻かれず、腐りきった政府や官吏に敢然と立ち向かう好漢たちの活躍に、胸を躍らせた。

水滸伝の登場人物たちには、なんとも格好いい「あだ名」がついている。
背中に九匹の竜を背負った「九紋竜(くもんりゅう)」の史進。
愛すべき破戒僧、「花和尚(かおしょう)」の魯智深。
絶世の美男子である「浪子(ろうし)」燕青などなど。

『水滸伝』は、民衆に伝わる講談を繋ぎ合わせて作られた物語であるため、登場人物のあだ名には、助けてもらった民衆や、その強さをおそれた敵からの敬意が込められている。
現代でいうと、「キング・カズ」や「燃える闘魂」などの「異名」に近い。

全国の小学校で、いじめ防止のため、友達同士の「あだ名呼び」を禁止し、名前に「さん付け」を求めるルールが増えているらしい。
水滸伝のあだ名や、スポーツ界の異名とは意味合いが違うかもしれないが、やはり少し寂しいニュースにも思う。
その子本人が「嫌だ」と言える空気を作ることや、「蔑視」に対する反応を考えることなどで少しずつ対応しながら、なんとか「あだ名文化」が残っていくといいな、と思っている。

その人の生きざまを表す「戒名」

仏式の葬儀では、亡くなった人に「戒名」という名前を授与することになっている。
厳密に言うと、戒名は、出家して「仏弟子」になった証に授与するものなので、必ずしも葬儀の時じゃなくてもよい。どちらかというと、生前に出家する方が望ましい。
でも、お寺の生まれでもない限り、「出家」の機会を持つ人は少ないため、葬儀の導師から授かるのが一般的になっている。

この世に生まれてきたときに、今の名前を授かったのと同じように、仏さまの国で新たに生まれるにあたり、授かる名前が「戒名」である。
この世での名前に、親御さんや様々な方の思いが込められているのと同じく、戒名にも様々な意味が込められている。
葬儀で授与される場合には「生前にどんなことを成してきたか」「どう生きてきたか」ということ。
そして、生前にいただく場合には「これからどのようにして生きていきたいか」という意味を含めるのが一般的である。

どちらにしても、「戒名」には、その人の生きざまが現れる。
少し乱暴かもしれないが、その人のことを表す「異名」ともいえる。つまり「あだ名」である。

戒名を作るのは難しい。その人が何を大事にしてきたか。どんな風に過ごしてきたか。亡くなった人であれば喪主からの希望。諸々のことを踏まえて、その人に相応しい名前を考える。
「戒名はいらない」などと聞くこともあるが、坊さんである自分としては、あの世で名乗るときに必要な大事な名前だと思っているし、見ただけでその人が理解できるような名前にするように心がけている。

「どのように生きていきたいか」「どんな道を歩みたいか」という希望は、子供の頃であるからこそ尊重されるべき。
小学生のあだ名も、その子自身の歩みたい道や、家族の思いが乗っかったものなら、むしろ喜ばれるのではないだろうか。

安倍元首相の戒名について

安倍元首相の戒名について
先日お亡くなりになられた、安倍晋三元首相の戒名は「紫雲院殿政譽清浄晋寿大居士(しうんいんでんせいよしょうじょうしんじゅだいこじ)」と付けられました。
浄土宗では最高位とされる「院殿」「大居士」号。浄土宗の仏弟子である証明の「譽」号が使用されています。
「紫雲」は、臨終の際に迎えに来てくださる、阿弥陀さまが乗られている雲のことです。
また、法然上人が浄土宗開宗の際、西の空に紫の雲を見つけた、という話もあります。
「政」を生業とし、誇りとしながら「清浄」この上なく清らかに「晋寿」自分の道を全うされた、という意味で付けられたのではないかと推察します。
安倍晋三元首相の菩提を心より願います。

合掌

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