いいてんきになりますように

私の母校、大正大学の学園祭。第10回である今回は、3年ぶりの対面開催で行われました。
私が在学している頃は「銀杏祭(いちょうさい)」と呼ばれ、11月の頭に行われていました。
6月という珍しい時期に行うのは、今後のコロナの感染状況がどうなるか不透明の中、このままでは対面開催を経験しないまま卒業してしまう生徒が出る可能性があるため、比較的落ち着いている今のうちに開催してしまおう、ということのようです。

キャッチフレーズの「いいてんきになりますように」には、梅雨時のため、リアルな天気のお願いの意味もありますが、参加される方々の「いい転機」になるように、という思いも込められています。
この2年間の、学生たちの心からの叫びなのです。

「無常」は「無情」ではない

学生時代、私はたいてい、大学の中にいました。
アルバイトもしていなかったし、かといってマジメに授業を受けていた訳でもなかった私は、いつもヒマをしていましたが、そんな時ここに来れば、必ず誰かがいました。
マジメに授業を受けている奴も(当然)いたし、一緒に授業をサボり、早めの学食をつきあってくれる奴もいました。
学食の2階では、誰かしらが麻雀のメンツを探していたし、銀杏並木のベンチに適当に座っていれば、必ず誰かが通り、飲みに行くことになったのです。
私にとって、この大正大学は、自宅よりも居心地のよいオアシスでした。

学祭の数日前に、仏教青年会の代表と会う約束をしており、久しぶりに母校を訪れました。
当たり前ですが、あの頃私と過ごした奴らは、誰もいませんでした。
銀杏並木もなくなり、学食はメニューも一新され、様変わりしていました。よくキャッチボールして時間をつぶした図書館裏のスペースは、自転車置き場になっていました。

中へ入ろうとしたら、受付で呼び止められ、名前と用件を書かされてから、通行証を渡されました。
仏青の代表が来るまで、どこで待っていたらいいかもわからず、通行証を首にかけたまま、寂寥感とともに、しばし呆然と立ちつくしていました。
とりあえず自販機でコーヒーを買ったものの、どこで飲んだらいいのかもわかりません。
あの頃、いつ来ても私を迎え入れてくれたこの場所が、今では、ひとりでコーヒーを飲む場所すら与えてくれない。
「諸行無常」という仏教の根本。この世はすべて、移り変わっていきます。だから、物事に執着してはいけないのですが、私はそれを受け容れる事ができませんでした。

その後、無事に代表と合流し、用件を済ませる事ができました。
帰り際、しばらく校内を見学していると、あの頃と変わらない場所もいくつか発見しました。
一番ボロかったのに、なぜかそのまま残っている4号館。そしてクラブ棟の奥にあるジム。懐かしさと共に、あの頃の思い出が次々とよみがえりました。

昔を懐かしむという行為は、旅行をした時と同じような心の癒しがあるそうです。諸行は無常ではありますが、過ぎ去った時を懐かしみ、思い出すことは無駄ではないのです。
心のすべてが癒された訳ではありませんが、少しだけ、あの頃のオアシスが還ってきたと思う事にしました。「無常」は「無情」ではないのです。

「いいてんき」と「ゲリラ豪雨」の間で

2日間の鴨台祭。初日は晴れ、2日目はゲリラ豪雨を挟んだ曇りでした。
終日「いいてんき」とはいかなかったものの、学生たちは、久しぶりのイベントを心から楽しんでいるように見えました。
仏教青年会の「射的」には老若男女が行列をつくり、仏教学科のブースではバザーや護摩法要、御朱印の授与などもあり、賑わいを見せていました。
真ん中のステージでは、和太鼓やダンス、ファッションショーなどが次々と行われ、その他のブースも活気にあふれていました。2年間溜まっていた何かを発散するかのように、学生たちは、懸命にみんなの「いいてんき」を創るべく奮闘していました。

2日目の午後、元「礼拝堂」だった場所にある「8号館」にて行われた「久保沙里菜と学ぶ仏教文化遺産」を拝聴しました。
僧侶の方々や教授にまざり、現役の大学院生が立派に発表を務めており、今の学生のレベルの高さに驚かされました。
時宗の僧侶の方による踊り念仏の実演もあり、大満足で会場を後にしました。
8号館を出たら大雨が降っていましたが、学生たちの熱気で、それもじきにあがりました。
紹介できなかったブースも、すべてがパワーに満ち溢れていました。

仏像や寺院の研究が学問として成り立つ時代となり、最新の機器を使いながら学ぶことのできる今の学生を、一瞬羨ましく思いましたが、私が今の学生だったとしても、その有難さに気づくことはなかったかもしれません。
いつまでも学生時代を懐かしんでいる場合ではない、と突き付けられた気がしました。
第10回鴨台祭は、私にとっても「いい転機」となったのです。

鴨台祭2022 公式サイト

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