ドラクエの魅力のひとつに、「登場人物がイキイキと動いている」という点があります。

彼らはいつも、きちんと「自分の人生」を生きています。

「どこどこの洞窟にカギがあるよ」とか、
「西にほこらがあるよ」などの物語のヒントだけでなく、
ドラクエの世界の住人たちは、自分たちの暮らしに誇りを持ちながら生きているように見えます。

ドラクエ6のハッサンの父親は大工ですが、
息子の旅の心配をしながらも、大工としての矜持も持っており、
下町のオヤジのような美学の中で生きています。

2のサマルトリアの王子は「のんびり屋」であると、王子の妹が教えてくれます。
その通り、お互いに何度もすれ違いながら、
ようやく、寄り道した街で出会うことができるのですが、
その時の「いやー、さがしましたよ」という言葉に腹が立った人も多いことでしょう。

だって探したのはこっちなのだから。

それでも、サマルトリアの王子を探しているうちに、
その人物像にふれ、「はやく会いたいなあ」という心がプレイヤーに芽生えてきます。

それは、彼が「自分の人生」を生きていることで、とても幸せそうに見えるからです。

サマルトリアの王子と会えるリリザの街では、
街の片隅で、まったく物語と関係せず、
立ちションをしている人もいます。

ドラクエ3の田舎村「スー」には、端っこのほうに、馬を連れたおじさんがいます。

そのおじさんは、話しかけるたびに、旅のヒントも攻略情報でもなく、
いつも「これ わたしの うま とてもいい うま」と嬉しそうにしゃべります。

そして馬も「ひひーん」と誇らしげに応えるのです。

このおじさんのような生き方が、ひとつの「幸せ」だと思います。

ドラクエの主人公たちには、「魔王を倒し、世界を平和にする」という目的があります。

それと同じく、スーのおじさんにも「田舎の村で立派な馬を育てて、
農業を営んでいく」という目的があります。

その目的には、どちらが上も下もありません。
その人がそれを行っていくことで「幸せだなあ」と感じることが大事なのです。

自分にできる精一杯の仕事を、
堂々と行っているという自負があるからこそ「とてもいい うま」という自慢が出てきます。

通りすがりの旅人に、自分の馬の素晴らしさを、なんのてらいもなく、伝えることができるのです。

仏教では、過去も未来も頭の中にしかなく、あるのは「今」だけだと考えます。

今、目の前にある使命に全力で取り組んでいるからこそ、
そこに「自分の居場所」ができ、「幸せ」が生まれてきます。

いろんなシリーズのダーマ神殿にいる「ぴちぴちギャル」になりたいと言っているおじいさんは、
7のエンディングで夢が叶い、ついに「ぴちぴちギャル」になれます。

自分の夢を貫き、それを叶えたのです。

4で人間になれたホイミン。そして5では、登場人物たちが結婚しました。

人生の楽しさ、夢といった喜びを、登場人物たちがイキイキと堪能している。

それがドラクエ最大の魅力なのです。

写真協力
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著者紹介

鶯 蒼治郎
謎の浄土宗僧侶。
その正体は闇に包まれているが、以前は目黒で活動していたS山T郎ではないかとも言われている。
《著書》
三笠書房・知的生きかた文庫より『流されない練習』発売中
《関連情報》
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西念寺ホームページ:http://sainenji.tokyo/