夏休みに向け、今のうちから読んでおきたい本

間もなく夏休み。ここよりでは、今年もまた、お坊さんによる推薦図書を集めてみました!
読書感想文が得意な方も、ちょっと苦手だな、という方も、ぜひ参考にしてみてください。
また、親御さん方は、ぜひお子さんに「お坊さんが勧めていた本だよ」と教えてあげてください!

推薦人1 玉置真依(高野山真言宗) 
『ぼくたちは卵のなかにいた』石井睦美

おだやかに時間が流れる、楽園のような小さな世界。そこには「ひみつ」と「きまり」がひとつずつ。「ひみつ」とは、そこは、厚くて真っ白い壁に囲まれた「卵の中」の世界だということ。「きまり」とは、そこに暮らす子どもたちは、13歳の誕生日の日にだけ、「卵の外」の世界に出ていくことができるということ。「卵の外」には何があるのかは、出ていく人にしかわかりません。けれど、一度、外の世界に出れば「卵の中」には二度と帰れず、中の人たちに連絡することもできません。自分なら、どっちを選ぶだろう??と思いながら読んでみてください。
そして、できれば―、5年後や10年後に、大切な人や場所とのお別れを経験した後にでも、読み直してもらえたらと思います。

推薦人2 青江覚峰(浄土真宗東本願寺派) 
『こころ』夏目漱石

国語の教科書にも載っている、有名な『こころ』。その中に、このような会話文があります。
「奥さん、お嬢さんを私にください」(中略)「よござんす、差し上げましょう」。
本人不在で結婚が決まるなど、今では考えられないことでしょう。しかし、これが普通の時代がありました。そんな時代に生きた人々の「こころ」はどんなであったのか。社会が変わっても、変わらない「こころ」は何か。今の自分の「こころ」はどんなであるか。何度でも繰り返し読んで、「こころ」と向き合いたい1冊です。

推薦人3 雫有希(浄土宗) 
『さっちゃんのまほうのて』たばたせいいち

国語の教員でもあり、長年、中学校の校長を務めた祖父が、私に買ってくれた本です。
さっちゃんは右手の指がありません。幼稚園のおままごとで、お母さん役をやろうとするさちゃんでしたが「さっちゃんはおかあさんになれないよ。だって手のないおかあさんなんてへんだもん」と言われ、教室を飛び出しました。
お母さんに、なぜ自分には指がないのか、と聞いたさっちゃんに対し、お母さんはこのとき、さっちゃんの指は一生生えてこないことを告げるのです。
「生まれつき」。これは障がいだけでなく、生まれた家の環境、容姿など、誰にでもあるものです。思い返せば、「ひと様に対してあれこれ聞くもんじゃない。その人が話したときに聞けばいい」と祖父はよく言っていました。祖父は私に、「人の心の傷はどこにあるかわからない」という教科書に載っていない大切なことを教えたかったのかもしれません。

推薦人4 佐山拓郎(浄土宗) 
『星の王子さま』サン=テグジュペリ

「大切なものは、目に見えないんだよ」という言葉を上っ面だけ覚えていた自分は、実際に「おとな」になったとき、きっと本当はそんなに大切じゃない「目に見えるもの」に苦しめられることになりました。
「大切なもの」は誰にでもあるはずですが、大人になるにつれ、それが「大切」だったということを忘れてしまいます。あんなに大切だったのに。
自分にとって「大切なもの」は、他人にとってはそうでもないのかもしれません。
でも、その人にとっての「大切なもの」を尊重する気持ちが繋がっていくことが、きっと世の中の平和につながるのではないかと思っています。
今を生きる「子ども」たちはもちろん、かつて「子ども」だった「おとな」の皆さんに、もう一度読んでもらいたい1冊です。
想像してみてください。
無邪気な「子ども」から「ね…、ヒツジの絵をかいて!」と言われることを。

今回は以上です。
また来年、あらたな推薦図書をお伝えできるよう、読書を重ねてまいります。
皆さまに、本との佳き出会いがあることを願っております。
この記事で、読書感想文が苦手な人が、少しでも減りますように。

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