ミスター・サタンの「和顔愛語」

仏教には「和顔愛語(わげんあいご)」という言葉があります。

「おだやかな表情と心やさしい言葉で人と接すること」という意味です。

不機嫌な態度でいると、そういう空気がまわりに伝染していきます。
楽しい気分の人も、いつの間にか殺伐としてきて、それは自分に返ってきます。

怒りは怒りを呼ぶのです。

ドラゴンボールのミスター・サタンは、魔人ブウを退治する目的で近づきましたが、チョコレートやゲームボーイを渡すなどして、隙をうかがい、笑顔を見せているうちに、ブウと仲良くなりました。
これがまさに、「和顔愛語」の実践なのです。

魔導士バビディから封印を解かれたばかりの頃の魔人ブウは、ふとっちょで気のいい奴でした。
しかし、バビディが、ブウを自分の思い通りに動かそうと指示したり、界王神があまりにブウを恐れるあまり、戦闘が始まってしまい、争うことになったのです。

サタンは偶然からブウに気に入られましたが、他にも「和顔愛語」を実践した人がいます。
ジャンプコミックス40巻のp81に登場した、目の不自由な少年です。

生まれたときから目が悪かった少年は、魔人ブウを目の前にしても「びびる」ことがなかったため、ブウが不思議な力で目を見えるようにします。
少年が「びびる」ことを期待していたブウでしたが、生まれて初めて目が見えるようになった少年は、ブウに感謝するのです。
ブウはその少年にミルクをあげ、去っていきました。
少年の感謝の気持ちが、ブウから殺意を奪ったのです。

同じくジャンプコミックス40巻の、p148に出てくる犬も、ブウの心を開きました。
足を怪我していた犬は、ブウを前にしても逃げなかったので、ブウが足を治してあげました。
すると、ブウのことを恩人だと思い、なついてしまったのです。

ブウは、犬が自分のことを好きだと知ると「へへ…」「ちょっとうれしい」と笑いました。
(ジャンプコミックス40巻 p150)

少年や犬の、先入観のない素直な心が、ブウの笑顔を呼んだのです。

その後、魔人ブウは、ふとっちょの状態から邪悪な心が分離して、強くなってしまいますが、悟空が地球の全員から集めた元気玉で、消滅しました。

悟空がブウと闘っているとき、ベジータがつぶやいた

「…アタマにくるぜ…!」

「闘いが大好きで やさしいサイヤ人なんてよ…!」
(ジャンプコミックス42巻 p113)

という言葉に、悟空の勝因が表れています。

悟空も、相手のことを憎んで闘うというよりは、強い相手と闘うことで、自分をどれだけ高めることができるか、ということに重きをおいていました。
ふとっちょのブウは、生き残って、人間界と共存することができましたが、それもこの時の悟空の温情のおかげです。

「和顔愛語」が、地球の未来を救ったのです。

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著者紹介

鶯 蒼治郎
謎の浄土宗僧侶。
その正体は闇に包まれているが、以前は目黒で活動していたS山T郎ではないかとも言われている。
《著書》
三笠書房・知的生きかた文庫より『流されない練習』発売中
《関連情報》
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西念寺ホームページ:http://sainenji.tokyo/