浄土宗では「選択」という行動を大事にしていることは、
「道を選びとる幸せ ドラゴンボール法話#6」
で、お話した通りです。

そこでは、悟空や天津飯、
そして神と融合したピッコロの、
それぞれの選択を紹介しました。

「選択」という行為には、
「選んだのちの道や、選ばなかった方の道に対する『後悔』」がつきものですが、
あっけらかんとした世界観をもつドラゴンボールの登場人物たちは、割と後悔していません。

その中で、珍しく「後悔」を口にしたのが、
未来から来たトランクスです。

悟空がナメック星で討ちもらしたフリーザが地球に来襲したとき、
颯爽と現れて、あっという間にフリーザとその父親を倒したトランクス。

元々トランクスがいた未来では、
フリーザと父親を倒すのは悟空の役目だったはずでしたが、
タイムマシンでやってきたドラゴンボール本編の世界では、
なぜか悟空の帰りが間に合わず、先に着いていたトランクスがフリーザを倒しました。

しかし実は、
悟空は瞬間移動を身に着けており、
トランクスが倒さずとも、悟空が戻れたのです。

トランクスは「オレは無意味に歴史を変えてしまった……」と悔やみました。(ジャンプコミックス28巻 p127)

のちに判明するのですが、
その時点で既に、人造人間の「セル」が未来から送り込まれており、
トランクスのいる未来とはだいぶ歴史が変わってしまっていたのです。

その後悔は、トランクスの胸にずっと残り続けました。

悟空が心臓病になるタイミングも違っていたし、
自分の知らない「人造人間16号」が存在したし、
そもそもの人造人間の強さも、手に負えないほど強化されていたからです。

トランクスの後悔をやわらげたのは、チチのひとことでした。

「気にすることなんかねえだよ」

「おめえがこなかったら 悟空さ 病気で死んでたんだもんな!」

「おら すっげえ感謝してるだよ!」(ジャンプコミックス30巻 p117)

人が選択することで、
さまざまなことが起こりますが、
逆に起こらないこともあります。

良いことも悪いこともあります。
悪いことだけを拾って後悔してしまいがちですが、
当然、何かしらの良いことだってあるわけです。

仏教では、「過去と未来は頭の中にしかない」という考え方をします。

今あるのは「今」だけなのです。

だから過去を後悔するのではなく、
「今」をよりよいものにしていくために、
努力していくことが大事なのです。

トランクスのいた未来では、
悟空を心臓病で亡くし、
他の戦士たちも死んでしまいました。

そしてきっと、
神とピッコロの融合もなかったのではないかと思われます。

神様の
「いまの地球に必要なのは神ではない…… 強者なのだ……」(ジャンプコミックス30巻 p162)
という言葉が印象的だった融合。

その重たく尊い選択が生まれた、
ドラゴンボール本編の世界は、
トランクスにとっても大きな影響をもたらしました。

神とピッコロの融合のおかげで「精神と時の部屋」が解放され、
自分の世界の人造人間を圧倒できる力を手に入れましたし、
父であるベジータとの、
かけがえのない時間を過ごすことができたのです。

つらい未来を過ごしていたトランクスですが、
「過去へ戻る」という選択により、
さまざまなものを手に入れたのです。

未来へ戻ったとき、
ブルマへ見せた爽やかな笑顔が、
それを物語っています。

選択のあとは、
選んでしまった道や、
選ばなかった道への後悔をするのではなく、
「選んだ道で必死に努力して、その道で幸せに暮らす」というのが、
仏教におけるひとつの答えなのではないでしょうか。

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著者紹介

鶯 蒼治郎
謎の浄土宗僧侶。
その正体は闇に包まれているが、以前は目黒で活動していたS山T郎ではないかとも言われている。
《著書》
三笠書房・知的生きかた文庫より『流されない練習』発売中
《関連情報》
根岸・西念寺にて「ドラクエ法話」不定期開催
西念寺ホームページ:http://sainenji.tokyo/