グリーフケアとは

グリーフケアとは、大切な人を亡くしたなど、喪失や悲しみ「悲嘆(Grief、グリーフ)」の中にある人をサポートすることです。
グリーフケアは、そうした喪失や悲しみを経験した人々の悲しみと向き合い、癒やし、回復するための支援を提供することを目的とする専門分野です。

グリーフケアの意味

グリーフ(喪失感、悲しみ、怒り、不安……)は、死別以外にも離婚、失業、病気、移民、災害などに伴って起きる喪失体験も指します。
喪失や悲しみから立ち直る鍵は、グリーフワーク(悲嘆のプロセス)に沿って、自身の気持ちを整理し、周囲から継続的なサポートを受けることが大切です。
グリーフワークのプロセスを支えて見守ることを「グリーフケア」と言います。

グリーフケアの歴史

グリーフケアは1960年代に欧米で提唱され、日本でも1970年代頃より研究が開始されました。

背景には、
・医療の進歩で乳幼児死亡率が非常に低くなったこと。
・平均余命が長くなったこと。
・在宅ではなく病院で亡くなる人が大半を占めたこと。
・核家族化・非婚化が進んだこと。

などにより、死にゆく過程、看取りを身近に経験することが減り、グリーフ体験を共有する機会が減ったことがあげられます。
家族や地域社会など人とのかかわりが少なくなっている現代では、悲しみを1人で抱え込んでしまう人も増えています。そのような背景から、日本でも各地の医療、心理学、社会学、宗教、文化など、様々な分野からのアプローチを取り入れて、悲しみや喪失に対する支援を提供しています。

グリーフケアの目的

グリーフケアの目的は、悲しみや喪失に直面した人々を支援することです。この支援は、個人の感情やニーズに合わせて、身体的、感情的、社会的、心理的な側面にわたります。
具体的には、グリーフケアは以下のような目的を持ちます。

・悲しみや喪失に対する感情的なサポートを提供すること。
・悲しみや喪失に伴うストレスや不安を軽減すること。
・人生の意味や目的を見出すことを支援すること。
・新しい現実に適応するためのスキルを教育すること。
・家族や友人などのサポートシステムを構築すること。
・グリーフケアの専門家として、個人や社会における悲しみや喪失に対する理解を深めること。

グリーフケアは、悲しみや喪失に直面した人々が健康的な方法で悲しみを処理し、回復することを目的としています。また、個人の状況に応じて、悲しみや喪失を受け入れるための適切な支援を提供し、彼らが自分自身や周りの人たちと積極的に関わることができるように支援します。



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悲しみのプロセス

大切な人を亡くしたなど、喪失や悲しみの中にいる人は、長期に渡って特別な精神の状態変化(悲嘆のプロセス)を経るようになります。
この悲嘆のプロセスを「グリーフワーク」と呼びます。
グリーフワークは「ショック期」「喪失期」「閉じこもり期」「再生期」のプロセスをたどるとされています。

1.ショック期

喪失を受け入れることができず、現実を否定します。
人は茫然として無感覚の状態になります。
一見冷静に受け止めているように見えますが、死などの喪失はとてもショッキングな出来事なため、ストレートに受け止めると心身の崩壊を招きかねません。
死の報告を冗談や嘘としか受け止められないなど、物事を理解する機能が一時停止し、ショックをやわらげるために現実感覚が麻痺します。
また、パニック状態になることもあります。

2.喪失期

麻痺状態から回復しはじめると「死を受け入れたくない」という気持ちから否認が始まります。
自分を落ち着かせるために「そのうち元気に帰ってくるはずだ」など、楽観的な言動が聞かれることもあります。
死を現実として受け止めはじめたとしても、まだ受け止め切れない段階です。
号泣や怒り、敵意、自責感などの強い感情が、次々と繰り返し現れるのが特徴です。
この段階では、しっかり悲しみ泣くことが重要となります。

3.閉じこもり期

死や喪失を受け止めることができたものの、そのせいで自分の価値観や生活の意味を失い、うつ状態に陥ったり自分が存在していないような無気力な状態になります。
責任感が強い人に起こりやすいとされる罪意識は、過去の行いを悔やんで「こんなことになるなら、生きているうちにもっとあれこれしてあげればよかった」と自分を責める感情です。
罪意識は、うつ症状や引きこもりなどの要因となるほか、重篤な場合は自殺の危険もあります。
この時期は、死を確信する一方で、それを否定したい感情が合わさって情緒不安定になり、パニックを引き起こします。

4.再生期

少しずつ死を受けとめようとする努力が始まります。
「あきらめる」という言葉には「物事を明らかにする」という意味があります。
喪失の現実をあきらかにすることで今の自分が置かれた状況を受容し、悲しみを乗り越えていこうとする努力を始める段階です。
死などの喪失の悲しみを乗り越えて、新たな自分や新たな社会関係を築いていく時期です。この時期になると積極的に他人と関われるようになります。
喪失の苦しみを乗り越えて新たなアイデンティティを獲得したことで、成長し、新たな人生に向けて歩み始めます。



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グリーフケアの効果

グリーフケアの効果は、個人によって異なりますが、一般的には以下のようなものがあります。

ストレスや不安の軽減

悲しみや喪失に直面すると、精神的にも肉体的にもストレスがかかります。
グリーフケアを受けることで、心身ともにリラックスし、ストレスや不安を軽減することができます。

悲しみを処理しやすくなる

グリーフケアを受けることで、悲しみや喪失を受け入れ、それを処理することができます。
個人が新しい現実に適応し、自分自身を癒やすためのスキルを身につけることができます。

社会的サポートを得る

グリーフケアを受けることで、家族や友人などのサポートシステムを構築することができます。
また、グリーフケアの専門家やグループセッションに参加することで、同じような経験をしている人々とつながり、支援を受けることができます。

精神的な回復

グリーフケアを受けることで、個人は自分自身や周りの人たちと積極的に関わることができるようになります。
また、悲しみや喪失に対する理解が深まり、新しい目的や意味を見出すことができます。

研究によると、グリーフケアは悲しみや喪失に直面した人々にとって有益であり、精神的な回復を促進することが示されています。

グリーフケアの方法

専門家によるカウンセリング

グリーフを抱えることは、決して病気ではありません。しかし、病気でなくても苦しい状態であるのは変わりません。ときにはうつ病を発症してしまう場合もあります。

そこで、グリーフのプロセスを理解している専門カウンセラーに話すことで、安全にグリーフと向き合うことができます。

グリーフケアのカウンセリングでは、悲しみや喪失を受けた人が感情を受け入れ、受容することが重要です。カウンセラーは、個人の感情や思考を受け止め、安心感を提供するために、積極的に聴取し、グリーフからの回復を目指します。

また、喪失体験から慢性的に悲嘆や抑うつ状態などが見られる場合は、精神症状緩和のためにカウンセリングや薬物療法が有効と考えられます。

葬儀などのセレモニーに参加する

グリーフケアにおいて、葬儀やセレモニーに参加することはとても大切です。
また、骨をお墓に納めて供養することもグリーフケアの大切な方法の一つです。

葬儀やセレモニーに参加することで、同じように故人を偲び、悲しみを共有する人々と交流することができます。このような交流は、グリーフケアにおいて非常に重要です。

参加者と交流することで、感情を共有し、悲しみを分かち合うことができます。
思い切り泣いたり、故人との思い出やエピソードを話し、今の気持ちを素直に吐き出せたりできる場所が葬儀などのセレモニーです。

遺族として、また参列者として、いつ立ち会うともしれない告別式。
故人を穏やかな気持で、落ち着いてお見送りできるよう、事前に告別式の持つ意味や式全体の流れ、マナーを知っておくと良いでしょう。

アートセラピー、音楽療法などの創造的な方法

アートセラピー

アートセラピーは、絵画、彫刻、書道などの芸術的表現を通じて、グリーフを処理するための心理的支援を提供する方法です。アートセラピーは、自己表現や感情の解放、ストレス緩和などの効果があるとされています。

音楽療法

音楽療法は、音楽を用いて身体、心、精神の健康を促す方法で、グリーフケアにも活用されます。音楽によるリラックス効果や、感情の表出を促す効果があるとされています。

ジャーナルセラピー

ジャーナルセラピーは、日記を書くことによって自己探求や自己療法を行う方法です。グリーフに対する感情や思考を書きとめることによって、自己認識やストレス解消につながるとされています。

花や植物の観察

自然環境や植物を見たり触ったりすることは、ストレスを軽減する効果があるとされています。花や植物を育てることによって、グリーフケアに役立つ心地よい空間を作ることができます。

呼吸法

呼吸法は、深呼吸や瞑想を行うことで、身体的なリラックス効果や、感情の安定化につながるとされています。ストレスや不安感を緩和するためにも有効な方法です。

これらの方法は、グリーフケアに限らず、ストレスや不安感を抱える人にも役立つことがあります。ただし、個人の状況や環境に応じて、最適な方法を選択することが重要です。



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自己ケアとストレス緩和法

自己表現

グリーフに直面しているときは、自分の気持ちや感情を表現することが大切です。
自分に合った方法で、自己表現を行うことができます。
書き込み、絵画、音楽、またはダンスのような創造的表現は、自己表現に役立つことがあります。

ストレス解消のための運動

運動は、ストレスを解消するための有効な方法の一つです。身体的な活動によって、身体的な疲れを解消することができます。
ジョギング、筋力トレーニング、ヨガ、散歩、サイクリングなど、自分の好きな方法で運動を行うことが大切です。

イメージトレーニング

イメージトレーニングは、疲れた時や、ストレスがある時に行われます。
イメージトレーニングには、リラックスした場所に自分自身を想像する、自分自身を守るために自分自身を包む、自分自身のリラックスポイントを探すなどの方法があります。
翌日に悲しみを持ち込まないためにも、夜眠りにつく前に行うのも効果的です。

瞑想

瞑想は、自分自身の気持ちを静かにするための方法です。瞑想は、心と身体の緊張を解消し、ストレスを軽減するための有効な方法です。
瞑想は、自分自身が快適で集中するための場所、心と身体の緊張を解消するための音楽、または自分自身のリラックスポイントなど、自分自身に合った方法で行うことができます。

睡眠

睡眠は、心身の健康を保つために必要な休息です。
睡眠は、体力の回復やストレス解消に効果的です。
十分な睡眠を取ることが、ストレスを軽減するための有効な方法の一つです。

これらの方法は、グリーフケアに限らず、ストレスや不安感を抱える人にも役立つことがあります。



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専門家からグリーフケアを受けるには

グリーフケア外来

病院、メンタルクリニックで受けられるグリーフケアです。
カウンセリングを主としているだけではなく、病院でグリーフケアを受けることで、投薬などが必要な場合にすぐに治療を始められます。

外来名は「グリーフケア外来」以外に「遺族ケア外来」という場合もございますので、「お住いの地域 グリーフケア外来」と検索してみましょう。

グリーフケアアドバイザー

病院以外で受ける場合、資格を有する「グリーフケアアドバイザー」に頼る方法があります。例えば、日本グリーフケア協会に問い合わせてワークショップに参加すると、グリーフケアを受けることができます。

遺族会などの自助グループ

グリーフを抱えた人が集まり支え合う「自助グループ」「サポートグループ」「遺族会」「分かち合いの会」などが全国にあります。
また、遺族と接する機会の多い葬儀社がグリーフケアの一環として遺族同士の交流会や、専門家の後援会を主催している場合もあります。

専門家の本を読む

グリーフケアに関する本がたくさん出版されています。
体験する前に、まずはグリーフケアの内容を知りたいという場合は、まずは本を手に取ってみるのもよいでしょう。
遺族会が書いている本や専門家の本など、立場によってグリーフケアの考え方が異なります。自分にあった本を探してみましょう。

まとめ

悲しみから立ち直るためには、自分の気持ちを受け入れ、対象を見極め、手を差し伸べることが重要です。
あなたや身近な方が心身に辛い症状があり、「なかなか立ち直れない」「誰かと話したい」と感じているなら、誰かのサポートを必要としているのかもしれません。
グリーフケアはその過程において支援を受ける有用な選択肢となります。

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