お寺生まれである私は、人よりも和菓子を食べる機会が多かった。
お供え物のお下がりはもちろん、
祖父・祖母とも同居していたので、
自分たち用に買ってくるお菓子や、
来客のお土産も和菓子ばかりだったのだ。
その時に食べ過ぎたからか(なんと贅沢な奴)、
今でも若干アンコが苦手である。
「美味しいですよ」と勧められても、
「……、ありがとうございます」と、
返事までに妙な間があいてしまう。
自分から進んでアンコのお菓子を買うことも、めったになかった。
そんな私に、ここより編集部が、
「埼玉県の行田市にある「十万石」という会社が、
「ドラクエウォーク」とコラボしている「10万ゴールド饅頭」を食べてレポートを書け」と言ってきた。
なんということだろう。
彼らは「#お寺の子供あるある」を読んでないのだろうか。
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逆らうと仕事がなくなるかもしれないので、
とりあえず「……、わかりました」と妙な間をあけて、不服感を表してみたが、
間髪入れず「よろしくお願いします!」と言われてしまった。
どうやら伝わらなかったようだ。
別のスタッフが
「私の家のそばで買えるから、今度来るときに買ってきますよ」
と言いだした。
完全にまわりこまれてしまった。もう逃げられない。
ついに実食の日。
パッケージを見ると、かわいいスライムの絵。
それはいいのだが、
「うまい うますぎる 10万ゴールド饅頭」
と書いてある。
ドラクエでは、過剰な形容は要注意のサイン。
ドラクエ5の光の教団や、ドラクエ6のしあわせの国の事が浮かぶ。
「10万ゴールド」というのも少し胡散臭い。
ドラクエにおいては、店で売っている武器や防具より、
最終的には宝箱から手に入るものの方が強いのが常識である。
3万5千ゴールドする、ドラクエ3の「おうじゃのけん」という例外もあるが、
これはジパングから来た刀匠が、オリハルコンという奇跡の素材を使って、
精魂込めて造った逸品だからこその値段なのだ。
「おうじゃのけん」よりも、
アッサラームの商人がふっかけてくる「あぶないみずぎ」の値段よりも高い「10万ゴールド饅頭」。
果たしてその価値はあるのだろうか。
箱を開けた。
手ごろな大きさの饅頭が5つ。
ひとつ手に取り、口に運ぶ。
「……、うまい」
アンコへのブランクからか、
妙な間があいてしまったが、
素直な感想が出てきた。
うますぎる。
まず、皮がしっとりとしている。
コシヒカリの粉を使用しているとのこと。
日本人の心の米、コシヒカリ。
「おうじゃのけん」を造り上げたジパングの刀匠の姿が浮かぶ。
その皮を作るため、もうひとつのポイントである、
最高級の「つくね芋」を擦り下ろすことから「十万石」の1日は始まる。
うまいものは、職人のこだわりから生まれるのだ。
そこに、北海道十勝産の小豆から、さらに厳選した「エリート小豆」。
そして特別精製した砂糖を絡めることで、
秘伝のこしあんができあがる。
この風味のいいアンコが、ぎっしりと詰まっている。
「うまい うますぎる」とは、
十万石の先代が、板画家である棟方志功に差し入れをしたところ、
立て続けに5個食べ、6個目に手を伸ばしながら
「うまい」
「行田名物にしておくには」
「うますぎる」
とつぶやいたという逸話から生まれたコピーなのだという。
決して、過剰な表現などではなかった。
れっきとした実話だったのだ。
「10万ゴールド」という命名も、
江戸時代、行田にあった「忍藩」の石高が十万石だったことからきている。
あのジパングの刀匠が、
自分の故郷に誇りをもって「おうじゃのけん」を造り上げたように、
「10万ゴールド饅頭」も、行田に誇りをもった、
先代や棟方志功の思いが乗った名前なのだ。
「10万ゴールド饅頭」は、
オリハルコンから造られた「おうじゃのけん」のような、
人の思いと、こだわりから生まれた和菓子だった。
私は立て続けに5つ食べ終え、
買ってきてくれたスタッフに
「おお!わたしのともだち!」
と感謝を表し、お茶を飲みほした。
明日は「ドラクエウォーク」しながら歩こうっと。
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立正大学仏教学部卒業。東京仏教学院卒業。浄土真宗本願寺派僧侶。
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