正義とは、「お腹を空かせた人に、ひときれのパンを与える」こと

「アンパンマン」の作者、やなせたかしと、妻の暢さんの人生をモデルに、先日、半年間の物語を終えた、朝ドラ「あんぱん」。

戦争や災害などを乗り越え、「逆転しない正義」を探し続けた「のぶ」と「嵩」は、紆余曲折を経て、ついに「お腹を空かせた人に、ひときれのパンを与える」という着地点を見つけ出し、「アンパンマン」を完成させました。

「朝ドラ法話」第4弾となる今回は、「あんぱん」を仏教的に振り返りたいと思います。

普段、「たっすいがー」だと言われがちな皆さま。この法話を読んで、ぜひ自分なりの「正義」を見つけてください。

「ふうたんぬるか」学生だったのに、いつしかNHKのプロデューサーになり、定年後も好きなカレーを作り続けた「健ちゃん」のように。

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「人は2度死ぬ」by六原永輔

詩人でもあった「やなせたかし」の自伝をモチーフにしている「あんぱん」には、本人が記した名言がこじゃんと出てきます。

「なんのために生まれて、なにをしながら生きるがか、見つかるまでもがけ」

「人生は喜ばせごっこや」

「絶望の隣はにゃ、希望じゃ」

「走れ!絶望に追いつかれない速さで」

「おまんらも面白がって生きえ。女子こそ大志を抱きや」

「あんぱん」の台詞には、やなせたかしの人生観が詰まっています。どの言葉も素晴らしいのですが、個人的に好きなのは、蘭子の「豪ちゃんはここ(自分の胸を指して)におるき」という言葉です。

久しぶりに朝田家のみんなが集まり、楽しくしていたところで、「ヤムさんと豪ちゃんもここにおったらな…」とつぶやいたのぶへの返答です。

永六輔さん(六原永輔として、ドラマにも登場しました)に「人は2度死ぬ」という言葉があります。「1度目は、肉体が死んだとき」「2度目は、みんなから忘れられたとき」という意味です。

「あんぱん」の登場人物たちは、全員が、先に亡くなった人たちに対しての敬意を持ち続けています。

のぶたちのお父さんが被っていた帽子は、常に部屋に祀られていますし、千尋がもらってきたラジオは、釜じいにより「千尋くん」と名付けられ、最終回までずっと、嵩の仕事場にありました。

蘭子の部屋には、豪ちゃんの着ていた半纏が掛けられています。

嵩は、実の父である清や、育ての父の寛おじさんの言葉を、常に胸の中に留めています。

八木さんも「卑怯者でない奴は、決して忘れられない」と崇に対し感情をあらわにしました。

全員が、死者への思いを抱え続けながら、人生を歩んで(走って)います。

日本仏教の最大の特徴である「先祖供養」は、亡くなった人たちへの「感謝」を表すものです。

亡くなった方々からいただいた「縁」に感謝し、今、自分が生きていることへ感謝することで、亡くなった方へのお弔いの意を表すと同時に、命の繋がりを感じるための大事な儀式です。

「あんぱん」の人物たちは、自然と「供養」の気持ちを持ち続けています。御免与町の朝田家でいつもお茶を飲んでいた、あのお坊さんが、教えを説いていたのかもしれません。

このことを踏まえて名台詞を振り返ると、亡くなった人から教わったことが、のぶや嵩たちのその後の人生に、大きく影響していることがわかります。

誰かが覚えている限り、人は2度死なないのです。

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逆転しない「正義」

アンパンマンは、お腹が空いて困っている人たちに、自分の顔を食べさせて、その人の空腹を満たします。

「逆転しない正義とは、献身と愛であり、他社を助けることが最も重要である」とする嵩の精神が生み出した行動です。

様々な苦労や困難を越え、たどり着いた境地。嵩はさらに、「アンパンマンは、カッコよくてはいけない」と言います。

アンパンマンの目的は、敵であるバイキンマンに勝つことではありません。「人を助ける」ことに重きをおいています。

「バイ菌がなくなると、人間も生きていけない」「悪い菌と良い菌、どちらも共存して、拮抗して戦っているのが、健全な世の中だと思うんだ」という嵩の優しさと、「正義を貫くには、自分も傷を負わなければならない」という非情とも思える考え方が融合し、生まれたのがアンパンマンというヒーローです。

仏教における「布施」は、「自分にできる最大のことを差し出す」という修行です。

アンパンマンは、常にそれを意識しながら行動しています。

アンパンマンは、「逆転しない正義」のために、いつも「どこかの空を飛んで」います。

「今を生きることで、熱いこころを燃やし」ながら、「生きるよろこび」を感じています。

自分の信じる場所へ、「愛と勇気」を伴いながら、飛び続けています。「たとえ 胸の傷がいたんでも」

「時は早く過ぎる」ことも「光る星は消える」ことも知っているアンパンマンは、敵だろうが味方だろうが、困っている人を助けたいのです。カッコ悪くても、顔をちぎって食べさせたいのです。

のぶがアンパンマンの事を好きなのは、嵩の優しい心が、すべてアンパンマンに反映されているからなのでしょう。

のぶの中にも、嵩を献身的に支えた「布施」の心があったのです。

まだまだ「あんぱん」を語るには足りませんが、一旦ここで区切りとします。

また、どこかの空でお会いしましょう。

「ほいたらね」


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