「共生」の物語「カムカムエヴリバディ」
NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が面白い。
今から約100年前、日本でラジオ放送が始まった日に生まれた「安子」が、戦争や、さまざまな試練の中「ラジオ英語講座」と出会い、人生を切り開いていく。
物語はその後、安子の娘である「るい」。
そしてさらに、るいの娘「ひなた」へと主役を移し、進んでいく。
行き違いから、安子とるいは関係を断ってしまうのだが、るいは自分の人生を歩みながら、立派に成長する。
いつか安子との誤解が解けることを、いち視聴者として願わずにはいられない(3月現在)。
安子の娘、「るい」は、アメリカのジャズミュージシャン「ルイ・アームストロング」にちなんだ名前である。
るいはその後、トランぺッターの「ジョー」と結婚し、「ひなた」を出産する。
「るい」も「ひなた」も、安子と、戦争で亡くなった安子の夫が好きだった「On The Sunny Side of the Street」という曲から「日なたの道を歩んで欲しい」という願いを込めて名付けられた。
親の思いは、会えなくても繋がっている。これぞ浄土宗の「共生(ともいき)」である。
浄土宗は「反戦」から生まれた
個人的なことを言わせてもらうと、「安子」は私の祖父母の世代。
そして「るい」は私の両親の世代である。
私は「ひなた」の弟「桃太郎」と同年代。
もし私に姉がいたら、あんな感じだったのだろうか、と想像しながら、自分の少年時代を重ねつつ、毎日楽しみにドラマを観ている。
ドラマを通して観ていると、自分が少年時代を過ごした昭和50年代は、まだ戦後30年しか経っていないのだ、と思い知らされる。
平和だと疑っていなかったあの頃だが、祖父母の世代は普通に戦争に出かけていっていたし、両親の世代も、その影響で貧しい時代を過ごしていた。
私たちの平和は、さまざまな人たちが、目の前の課題と真剣に向き合い、乗り越えてきたからこそ成されていたのだ、と感じさせられる。
浄土宗は、戦乱の世の中で父親を目の前で殺された法然上人が開祖となり、広まった。
法然の父、漆間時国は、今わの際に「敵を恨んではならない。恨みは恨みを呼ぶだけだ」と、幼き法然に言い遺している。
浄土宗は、反戦の心から生まれた宗派なのだ。
世の中はすべて縁でつながっている
現在、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってしまい、世界情勢は緊迫の一途をたどっている。
「戦争反対」という言葉だけで、この戦争が収まる訳ではないことは分かっているが、それでも、浄土宗教師の端くれとして、戦争反対を称え続けたい。
人は、些細なことでぶつかり合ってしまうし、分かり合えないと思うこともたくさんある。
それでも、自分や目の前の人たちのことを思い、今、この時を全力で歩んでいくことで、いつか平和が実現できるのではないか、とは信じている。
世の中はすべて縁でつながっている。
自分の目の前のことに全力を尽くし、それが世界全体に広がれば、いつか必ず、世界平和はやってくる。
主題歌に込められた思い
「君と私は 仲良くなれるかな
カムカムエヴリバディ 主題歌:AI,アルデバランより引用
この世界が 終わるその前に」
という歌で、「カムカムエヴリバディ」は始まる。
きっと、安子とるいの誤解も解ける日が来るのだろう。
そしてそれは、それぞれの日常を、精一杯生きてきたからこそ結ばれる「縁」によるのだろう。
「君と、君の大切な人が 幸せである そのために
カムカムエヴリバディ 主題歌:AI,アルデバランより引用
祈りながら sing a song」
「南無阿弥陀仏」とは、つまりこういう事である。
テレビドラマを楽しみに観ることができる平和を噛みしめながら、浄土宗教師として、できることを精一杯行っていきたい。
「君と、君の大切な人が幸せである そのために」
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浄土宗僧侶。ここより編集長。大正大学卒業後、サラリーマン生活を経て、目黒の五百羅漢寺へ転職。2014年より第40世住職を務めていたが現在は退任。ジブリ原作者の父の影響で、サブカルと仏教を融合させた法話を執筆中。