友人の死

私の原点は、小学生の頃、担任の先生に作文を褒められたことでした。

このことがきっかけで、私は文章を書く楽しさを知り、3年前には著書を出版するまでに至りました。

いま、ここよりで編集長を務めているのも、あの時先生が褒めてくださったからではないかと思っています。

卒業以来、その先生とはお会いしていないし、この先もきっと、会う機会はないでしょう。

でも、先生の記憶は消えることはなく、今の私に繋がっています。

浄土宗でいう「共生(ともいき)」は、縁の繋がりの中で、何らかの思いを託し、思いを託された人が、さらに次代へそれを繋げていくことをいいます。
そういった意味で、私とその先生の縁は、まだ繋がっているのです。

話は変わりますが、3年前、私の大正大時代の同期が亡くなり、焼香をしに行ってきました。

既に寺院の住職だった彼の葬儀は、かなりの人数が集まっていました。

本堂の入り口に、帰りに靴を間違えないようにするための番号チップが置いてありました。

たまたま「11番」を手に取った時、ふいに、修行時代の彼との思い出がよみがえってきました。

25年前、京都・知恩院でのこと。

修行中は、外部の情報が遮断されてしまうのですが、まれに親族や恩師などが訪ねてきた時などに、外部情報にふれる機会が生まれます。
誰かが情報を手に入れると、それは瞬く間に修行僧のあいだに広まっていきます。

ある時彼が、「佐山くん、カズがレッズに移籍したらしいぜ」と、もっともらしく言ってきました。

カズとは、言わずと知れたサッカー選手。背番号11のスーパースターです。

海外へ移籍していたのですが、親会社の意向で、1年で日本のヴェルディ川崎(当時)に戻ってきていました。

その経緯があるため、今さら国内の浦和レッズに移籍するはずなどないのですが、ウソをつくのがうまい彼は、必ずどこかに信ぴょう性を漂わせてくるのです。

「それがね、わざわざ呼び戻したけど、ヴェルディが年俸払えなくなったみたい。
また海外に行っちゃうと日本サッカー界のためにならないから、チェアマンが日本で移籍先探して、レッズが手を挙げたらしいよ」

その時も、しばらく疑っていましたが、結局は信じ込まされてしまいました。
腹の立つことに、信じきったその瞬間にウソをばらすのが、彼のやり方です。

「ウソだよ、佐山くん」と言ったときの彼の顔が、まだ私の脳裏に残っています。

この出来事を思い出した以上、3年経った今も、先に浄土に旅立った彼と、私の縁はまだ繋がっています。

このしょうもないウソを、次代の誰に、どのように伝えていくかが、私の目下の悩みです(笑)。

突然亡くなったお坊さんの友人の話 「佐山拓郎のウグイス谷から」第9回
友人の死

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