孫悟空は厳しい修行の末、激しい怒りをきっかけにスーパーサイヤ人となりました。

フリーザとの戦いの真っ只中で悟空がみせたあの変身の衝撃を忘れられない方は多いのではないでしょうか。
かく言う私もそのひとりです。

当時ジャンプで連載を追っていた私は、
「ついにあの伝説のスーパーサイヤ人が目覚めたか」と感激したのですが、
単行本でまとめ読みをする若い読者の中には、
悟空のスーパーサイヤ人への変身を「ドーピング」だととらえている方もいるようです。

『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』はテンポ良くストーリーが進む作品のため、
通して読むと連載時の悟空の苦労が伝わりづらいのかもしれません。

この作品を丁寧に読み込んでいる人には説明不要かもしれませんが、
スーパーサイヤ人への変身というのは、決してドーピングによる変身などではありません。

悟空の鍛えてきた力が修行の末に高まり、怒りをきっかけにして「目覚める」ものであり、
そこには当然、自分自身の意志や努力が必要となってくるものなのですから。

さてこれを仏教の教えと絡めますと、悟空がスーパーサイヤ人になった経緯は、
お釈迦さまが悟りに達するまでと似ていると言えるでしょう。

王家にお生まれになったお釈迦さまは、
当時のインドにあった「カースト制度」という厳しい身分制度に対し、
「なぜ生まれながらにして身分が決まってしまうのだろう」「身分の差にかかわらず、
病や死が平等に訪れるのはなぜだろう」と疑問を持ち、
自身が抱いた疑問、すなわち病や死の苦しみの解決を目指して出家しました。

お釈迦さまはその後6年もの間に
「息を止める」「直射日光を浴び続ける」「断食」などの様々な苦行を積みますが、
一向に悟りの境地に入ることはできませんでした。

しかしその後あまりの苦行を見かねた少女から施されたお粥を食べた時に、
過度の苦行に意味はないと感じて、ついに生死の境を彷徨うほどの過酷な苦行をやめることを決意しました。
そして体力を回復したのちに菩提樹の下で瞑想し、ついに悟りに達するに至るのです。

お釈迦さまの悟りへの道は、瞑想だけでも、苦行だけでも、
もちろん出家しただけでも成り立つことはなかったでしょう。

なぜなら、出家をして、苦行という辛く厳しい経験を経たのちに瞑想したことで、
ようやくたどり着いた境地こそが「悟り」なのですから。

悟空も同じです。単にあの場でクリリンがやられ、
怒っただけではスーパーサイヤ人にはなれなかったでしょう。

それまでの歴戦の数々、神様や界王様の下での厳しい修行。
そしてナメック星へ行くまでの宇宙船で極限まで鍛え抜いた身体があったからこそ、
あの場で怒ることがきっかけとなったわけですし、スーパーサイヤ人に「目覚める」ことができたのです。
ですから、決して楽をして強くなったわけではありません。

「おだやかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚める」のが、スーパーサイヤ人です。
地球に来たばかりの頃、悟空はとても凶暴でした。
しかし谷底で頭を打ってからはめっきりおとなしくなりました。

ただ、皆様ご存知の通り悟空はおとなしいだけの性格ではありません。
思うに、そこで出会った孫悟飯という達人から人の道を習い、
のちに亀仙人から武の道を教わることで、
おとなしいだけではなく「おだやかな心」を手に入れたということなのではないでしょうか。

物事は、積み重ねてきた「縁」から成り立ちます。
スーパーサイヤ人も、悟りの道も、小さな事の積み重ねから始まるのです。

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著者紹介

鶯 蒼治郎
謎の浄土宗僧侶。
その正体は闇に包まれているが、以前は目黒で活動していたS山T郎ではないかとも言われている。
《著書》
三笠書房・知的生きかた文庫より『流されない練習』発売中
《関連情報》
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西念寺ホームページ:http://sainenji.tokyo/