仕事とごはんと、ときどき仏教

青江覚峰さんが住職を務める「緑泉寺」は、観光地・浅草の中でもひときわ静けさを保つ一角、浄土真宗東本願寺派本山・東本願寺のすぐそばに建っています。

寺社フェス「向源」の副代表を務め、それ以前には、インターネット寺院「彼岸寺」の立ち上げなどに携わり、また数々の著書の執筆や、漫画作品の監修も務めている青江さんは、「料理僧」としても有名です。

お客さんに目隠しをしてもらいながら料理を提供し、素材の味や、食べるという行為の大切さを感じていただくイベント「暗闇ごはん」を主催するなど、料理や食育について力を入れているお坊さんなのです。

緑泉寺の長男として生まれながら、「お寺を継ぎたくないなあ」と考えていた若き日の青江さんは、「継がないためにはどうしたらいいか」と考えた結果、渡米して起業し、MBAを取得しました。

子どもの頃から料理が得意だった青江さん。そのうち、友人たちに自分の料理をふるまうようになり、順調にアメリカでの生活を送っていました。そんな時に、あの「9・11」が起こるのです。

自らの無力さに絶望し、「自分は何も持っていなかった」と思い知らされた青江さんに残っていたのは「私は日本人だ」というアイデンティティだけでした。

会社を辞めて日本に戻り、築地本願寺で仏教を学びなおします。

そこで出会った仲間と切磋琢磨しながら、「自分に何ができるか」「どのように仏教を広めるか」を試行錯誤していくうちに、アメリカ時代に好評だった料理と、仏教の思想を組み合わせることを思いつき、「暗闇ごはん」が生まれたのです。

食べるを通して自分を見つめ直すことができます。

「暗闇ごはん」と「お寺ごはん」

「暗闇ごはん」は、薄暗闇の部屋でアイマスクを着用し、視覚を奪われた中で、「嗅覚」「味覚」「聴覚」「触覚」をフル回転させながら、目の前の食事と向き合って、ふだん流してしまいがちな「食」について考えるイベントです。

多くのメディアにも取り上げられ、青江さんの代名詞にもなりました。

そして今、さらに「食」を突き詰めようとして生まれたのが「お寺ごはんオンライン」です。

「いただきます」という言葉をしっかりと考えながら、「食」を通じて、日本人が元々持っている感覚を再確認してもらおうと、今まで触れてきた「食」、「仏教」、そして「日本人としてのアイデンティティ」を組み合わせた、総決算ともいえる企画です。

食前の作法「四分律行事鈔」

僧侶が行う食前の作法のひとつに、「四分律行事鈔」という文言を読み上げることがあります。

宗派によって偈文の読み方に多少の違いはあるものの、大きな意味は同じです。

食事の前に、五つの項目について考え、食に感謝し、自分の道を正しく歩むための作法です。

・この食事がどのような背景でここにあるのかを考え、食事が調っていることに感謝する

・自分に、この食をいただく資格があるかどうか問いかけ、反省する

・心を正しく保ち、三毒(むさぼり、いかり、愚かさ)と向き合い、それを持たないように誓う

・食が自分の体の一部になるのだ、と認識し、正しい道を歩むためにいただく

・この食事を、己の道を成し遂げるため、つまり「生きるため」にいただく

という五つです。

青江さんは、ふだん僧侶が行っている食の作法から仏教を広げていくことが、どなたにも、もっとも伝わりやすいのでは、と考えたのです。

仏教を広めることで、まわりの人たちが生きやすくなり、最終的には、みんな幸せに暮らして欲しい、という青江さんの願いが込められた企画が「お寺ごはんオンライン」なのです。

お寺ごはんオンライン

現在はコロナ禍の中、オンラインで開催しています。

ひとりひとり、食べ物を五つに分割しておき、五つの項目とともに、3分から5分ほどかけて食事をかみしめながら、最後にどの項目が自分にもっとも響いたかを参加者同士で話し合い、共有するという形で行われます。まさしく、「食」について「自分」で考える企画なのです。

「仏教には問いはあるけれど、答えはないじゃないですか」と語る青江さん。「だから、問いをたくさん投げかけ、食事を通して、それについて考えて欲しいんです」と、「お寺ごはんオンライン」の目的を語ってくれました。

今後のさらなる活動が、期待されます。

お寺ごはんオンライン
https://www.temple-cuisine.jp/

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