ジブリ映画「魔女の宅急便」が好きです。少女の成長、挫折、恋、友情などが、すべて詰まっている名作です。主人公のキキが、友人のトンボを救うために、再び空を飛ぶラストシーンには、観るたびに心が動かされます。
エンドロールで流れる、ユーミンの「やさしさに包まれたなら」も、また名曲なのですが、好きすぎて聞きこんでいるうちに、この歌が、法然上人の「月かげ」と重なることに気がつきました。
「月かげの いたらぬ里は なけれども ながむる人の 心にぞすむ」
「月の光は、すべての人に平等に降り注いでいるけれども、その有難さに気づいて、空を眺める人だけが、澄んだ月の美しさを味わうことができる」という、阿弥陀仏の慈悲を、月の光にたとえた、浄土宗の宗歌です。
当たり前のように思ってしまう月の光も、暗い夜道を照らしてくれるなど、実はとても有難いものです。その有難さに気づくことで、月の光への感謝が生まれ、より、その美しさを堪能することができます。
同じように、おとなになっても、いつもよりも「やさしい気持ち」で目覚めることで、小さい頃は当たり前だと思っていた「不思議に夢をかなえてくれた神さま」が、「静かな木漏れ陽」や「くちなしの香り」の中にいるのだ、と気づくことができるのです。
おとなになると忘れてしまいがちな「奇跡」も、実は身近な「目にうつるもの」の中にあります。まさしく、阿弥陀仏の慈悲の光と同じです。
映画の登場人物たちも、慈悲の心にあふれています。
キキもトンボも、パン屋の夫婦も、絵描きのお姉さんも、ニシンのパイのおばあさんも、時計塔のじいさんも、もちろん猫のジジも。全員が、やさしさに包まれた縁の中で、前に進んでいます。
やはりいい映画だなあ、と思うのです。
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浄土宗僧侶。ここより編集長。大正大学卒業後、サラリーマン生活を経て、目黒の五百羅漢寺へ転職。2014年より第40世住職を務めていたが現在は退任。ジブリ原作者の父の影響で、サブカルと仏教を融合させた法話を執筆中。