俳句はたのしい。そして世間を穿つ。
12月刊行された本書は破格の句集です。すべての句がたのしい。
前作『娑婆(しゃば)娑婆(しゃば)』の解説の中で作家の故小沢信男さんは、佐山さんの作風を見事に披歴していますが、前作から15年、一段と深みとエスプリを増したこの句集は、作者が僧侶としての透徹した境地にあることを十七文字に映します。
本書オビに自選十句がありますのでその中から冒頭の三句を引きます。
「いかのぼりきのふの法螺のありどころ」
「戸袋へ雨戸が滑るやうに春」
「犬二匹丸洗ひして立夏かな」
いかがでしょうか。
ふつう句集なるものは俳人同士のやりとりに終始しがちですが、この句集は仲間内を突き破り、私たちを開かれた世間へと導きます。
まさに僧侶の本髄。
作者は寺を継ぐ前、少女漫画の原作者としてその世界で知られた存在でしたが、隠れた名作『コクリコ坂から』を手にした宮崎駿さんをうならせたエピソードはあまり知られていません。
この原作をアニメ化した宮崎さんの慧眼に今さらながら驚きます(監督は子息の宮崎吾郎)。
タイトルの「わなん」とは、稽首、礼拝、敬礼を意味する仏教用語。
巻末解説「西念寺で遊ぶ人たち」(金井真紀)も読みごたえ十分です。
『わなん【和南】 佐山哲郎句集』書誌情報
著者:佐山哲郎
年月:2024年12月25日
ジャンル:文芸
判型、ページ数:四六判、224ページ
IISBN ISBN978-4-88866-699-2 C0092 ¥2200E
価格(本体2200円+税)
コクリコ坂和尚と終活俳句探偵団
稀代の俳人、最後の句集
快作『じたん【事譚】』から名著『娑婆娑婆』をはさみ25年。
俳人は「旅宿の境界」に生きる。
著者情報
佐山哲郎(さやま てつろう)
1948年、東京都台東区生まれ。
漫画原作者、編集者、文筆家、官能小説家、歌人、俳人。
浄土宗僧侶で東国山中養院西念寺の住職。
スタジオジブリ製作のアニメーション映画『コクリコ坂から』の原作者。
本書籍については西田書店へお問い合わせください
https://nishida-shoten.co.jp/
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立正大学仏教学部卒業。東京仏教学院卒業。浄土真宗本願寺派僧侶。
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