仏壇や位牌、仏具などのさまざまな祭具に注目し、仏壇祭祀の展開やその地域的多様性、現代の変化など、家のなかでおこなわれる死者の祭祀の多様な歴史と民俗について考える展示会です。

「亡き人と暮らす―位牌・仏壇・手元供養の歴史と民俗―」

現在、国立歴史民俗博物館にて「亡き人と暮らす―位牌・仏壇・手元供養の歴史と民俗―」が特集展示されています。
総合展示内の第4 展示室にて開催されているこの特集展示では、位牌や仏壇などの葬祭や供養にまつわる物を陳列することにより、歴史の中で人々がどのように死者を悼み、向き合ってきたのかということを様々な側面から展開しています。

最初の展示は「仏壇」。
現代では仏壇というと多くの人が同じようなビジュアルイメージを持っているかと思いますが、宗派・時代・地域などによって、実は様々なバリエーションが存在します。
仏壇は江戸時代の寺請制度によって普及していきました。本尊となる仏像・仏画を祀る場合もありますが、先祖の位牌も一緒に祀られるようになり、やがて仏壇=家の中で先祖をお祀りする場所、という考えも増えていきました。
現代において熱心な仏教徒以外の家庭では、先祖と家族を繋ぐのが仏壇、というイメージが一般的になっていることと思います。

江戸時代の本の中の仏壇

一番目の展示品は江戸時代に作られた本。
挿絵には当時の仏壇が描かれていて、作り付けの戸棚の上だったり、部屋の一面を使って祀られているのが今とは違う形の位牌(複数の戒名を列記している)だったりと、なかなか興味深いです。

そして隣には実物の仏壇も展示。
最初に展示されている金と朱で塗られた「金仏壇(佐渡・大正時代)」は、その華やかさゆえ、一部の上流の家だけが持てるものでした。
殆どの家ではこのように特別にあつらえたものではなく、作り付けの戸棚を仏壇とすることが多かったようです。

仏壇と位牌のかたち

「戸棚式家具仏壇(青森)」はその名の通り戸棚式の仏壇で、家具と同じように移動させることが出来ます。
中には段があり、位牌やロウソク、供物などが置かれていたのでしょう。扉は障子タイプの引き戸で、閉めると普通の家具にしか見えません。
幅はゆうに1 メートル以上あり、縦長という一般的な仏壇のイメージとは違い、横長の作りになっています。
この横幅から見るに、大きな農家などで使用されていたのでしょうか。

戸棚式家具仏壇( 国立歴史民俗博物館蔵)

次に陳列されているのが、展示室の一面を使って並べられた位牌と仏具のコーナー。
位牌は中国の禅宗で使用され、日本へは中世頃伝わり、広まっていきました。
一言で位牌と言っても時代や地域によってその様相は様々です。
位牌の形に宗派ごとの違いは基本的にはありませんが、その分地域性、故人の年齢性別などによって形の違いがわかりやすく出る場合が多いのかもしれません。
展示品の位牌も伝統的な形のものから現代的なデザインのものまであり、時代の移り変わりが顕著です。

江戸時代や明治時代の位牌は現代のものより大きく、祭祀の形が時代によって変化していったことがわかります。
数人の戒名が連名になっている札型位牌は江戸時代の資料でもよく見られた形の位牌。
現代ではその形を変え、箱型の位牌の中に戒名・没年月日を記した板を何枚もまとめて収納できる「繰り出し位牌」も誕生しています。
異彩を放っている位牌が「トートーメー」という沖縄の位牌。
中国風のデザインで、先祖の札を順番に横並びで配置しています。
トートーメーとは「貴い御前」という意味だそうです。もう一つ印象的だったのは、秋田で作られた「地蔵の土人形」。
子供が亡くなるとこの地蔵像の裏面に戒名・没年月日などを書き、寺院の位牌堂に安置するそうで、つまりこの像そのものが位牌ということです。
夭逝した子供の魂が迷わないように、お地蔵様に極楽へのお導きを託したのでしょう。

トートーメー( 国立歴史民俗博物館蔵)
地蔵の土人形( 国立歴史民俗博物館蔵)

新しいかたちの仏壇と供養

過去の資料だけではなく、現代に生者が死者とどのように向き合っているのかということを考えるコーナーもあります。
現代においては、生活スタイルや家の形・大きさ、家族構成などの変化とともに、仏壇のあり方も変化しています。
今では仏壇の無い家も珍しくありません。
しかしそれは決して死者への思いが消えたわけではありません。
例えばそれなりのスペースが必要な一般的なイメージの仏壇ではなく、家内の一角の小さなスペースに故人の遺影をさり気なく置いたり、遺灰を専用の容器に収め、そのまま住居に置いても違和感のない洗練されたデザインの手元供養にするなどの新しい祭祀の方法を選ぶ人も増えています。
また、いつでもどこでも故人と一緒にいたいと望む人のために、遺灰や遺骨を専用に装身具の中に入れて、常に身につけられるようにと作られたアクセサリーなども展示されています。

人間にとって、死とは恐ろしいものです。
自分が死ぬことにも大切な人が死ぬことにも最大の本能的恐怖を持っています。
家族との死別という耐え難い苦痛に直面した時、葬祭という儀式を通して故人を悼み、心を込めた精一杯の弔いをすることが、故人への手向けであり、同時に遺族の心の癒しということにもなります。
家の中に仏壇や手元供養などを置くスペースを作ることで、たとえ肉体は滅しようとも故人との繋がりは自分の傍にあって、死は永遠の別れではなく生きていてもそうでなくても自分と彼らのスピリットはいつも共にあるのだ、という人間の祈りが、祭祀にかかわる様々な「モノ」達には宿っています。

地域や歴史に沿って見直すことで、人生の営みと家族に対する限りない愛情と哀悼が、見る人の心に静かに沁み渡った、そんな特集展示でした。

 特集展示「亡き人と暮らす-位牌・仏壇・手元供養の歴史と民俗」開催概要

●展覧会名/第4展示室 特集展示「亡き人と暮らす-位牌・仏壇・手元供養の歴史と民俗」
●会期/ 2022 年3 月15 日( 火) ~ 9 月25 日( 日)
●会場/国立歴史民俗博物館 第4 展示室 特集展示室
●住所/千葉県佐倉市城内町 117
●開館時間/ 9:30 ~ 17:00(入館は16:30 まで)
●休館日/毎週月曜日(ただし休館となる日が休日にあたる場合は開館し、翌日を休館日とします。8月15日(月)は臨時開館いたします。)、9月13日(火) 
●電話/ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
●公式サイト/ https://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/special/index.html#room4