仏師 前田昌宏とは

ここよりインタビューシリーズ第1弾は、“浄土宗僧侶”でありながら“仏師”として活躍中の前田 昌宏師に話を伺った。

前田師は中学2年生の頃、自坊で薬師如来像が盗難に遭い、自ら仏様を彫ることを決心。

そして通っていた高校の美術教員が仏師であったことから、高校時代に仏像制作を開始。

現在では自坊の法務、仏師として仏像制作、さらには浄土宗大本山清浄華院にて仏像彫刻講座を開催している。

インド・ブッタガヤにある仏心寺をはじめ、数多くの寺院に仏像彫刻を寄進・奉納している。

Q1 仏師になった理由

編集部:仏師になった理由はなんですか?


前田師:中学2年生頃の話なのですが、自坊の大師堂という空海弘法大師の祀られているお堂に祖父と一緒に朝のお勤めに行ったところ、5体並んでいるはずの仏様が4体になっていたんです。
本来であれば真ん中にお薬師様、両脇にお不動様という並び順なのですが、よくよく見てみると、脇に並んでいるお不動様や仏具の位置が全体的に少しずつずらされていて、真ん中のお薬師様がいなくなっていることに気がつきました。
当時はそこかしこで仏像の窃盗事件が横行しているような時代だったのです。
美術と体育が好きだった私は、祖父に「それなら、私がお薬師様を彫るからね」と申し出ました。
そうは言ってもそのときはまだ仏様の彫り方など知りもしなかったわけなのですが……。

高野山高校という宗教系の学校に入学後、運の良いことに美術の先生が仏師だと知り、すぐに職員室まで尋ねて行って「実は中学生の頃にうちのお薬師様が盗まれてしまい、私がその代わりとなるお薬師様を彫りたいのです」と先生に教えを乞いました。
ありがたいことに先生の工房に通わせてもらえることになり、最初はひとつのマツの木をいただき、約1年間かけて形にしました。

だいたい仕上がったかなという頃に先生から「これでちゃんとしたお薬師様を彫りなさい」とヒノキの木をいただいたのです。そうしてやっと、高校生活の2年間をかけて無くなってしまったお薬師様を完成させることができました。

「将来は仏師になりたい」という気持ちが大きくなったのはその頃からです。
卒業後も学校に通い、僧侶の資格を取るため修行に入り僧籍も取得しました。

しかしすぐに食べていけるようになるわけではありませんから、しばらくはトラックの運転手と掛け持ちをして軍資金を貯めるというような日々を送っていましたね。
ただ、あのときに泥棒がうちのお薬師様を盗んでいかなければ、仏師としての私は存在していないでしょう。
もちろん泥棒に感謝をすることはできませんが、これもひとつのご縁。仏様のお導きがあったのかもしれないなと思っています。

前田師が初めてマツの木で制作した仏像

Q2 仏師でありながら、僧侶としての活動

編集部:僧侶としての活動はされているのでしょうか?

前田師:お勤めはしていますよ。
本堂があるわけではありませんが、自分の作った仏様の前で手を合わせてお念仏を唱えています。
しかし、ここはお寺ではありませんので、お葬式や法事などは行っておりません。

夏のお盆の忙しい時期などはお手伝いに回らせていただくこともありますが、現在は仏師の仕事をメインに活動しております。

Q3 仏像一体の制作期間

編集部:仏像一体にかかる製作期間はどれくらいでしょうか?

前田師:よく聞かれますが、サイズによって違います。

サイズが小さければ3〜4ヶ月程度で彫ることができますが、それなりの大きさになってくると2〜3年程度かかるものもあります。

1日や2日で完成するものではなく、日数をかけて彫っていき、そこから彩色をしたりするので、仏像完成までは制作に数年がかりになることが多いですね。

Q4 仏像を彫るときの思い

編集部:仏様を彫るときはどのような思いを込めていますか?

前田師:20年以上この仕事をしていますが、正直なところ頭で考えるというよりも手が勝手に動くようなイメージです。
もちろん頭の中に次に彫る仏様をイメージはしています。
頭の中に立体図のようなものがあり、仏様の右側はこのようなお姿で左側はこのような感じになるという構想に基づいてブロックの寄木に掘り出していくようなイメージとでも言いましょうか。
要は仏様にとってのいらない部分をとっていくような感覚です。
頭の中のイメージを実際に寄木の上に彫り出して形にしていきます。

制作の順序としては紙にデッサンを描いてイメージを固めてブロックの寄木を作り、それから彫り出していくという流れになります。
多分積まれた状態のブロックをお見せしても皆様にはただのブロックにしか見えないと思います。
私にも最初はただの積まれたブロックにしか見えていません。
しかし、彫り進めていくうちにだんだん仏様のお姿が現れていくんですよ。
最初から彫れるという自信がないと言ったら変ですが、出来上がったときに改めて「あぁ、出来上がった」と思ったりします。

ただ、今も昔も「この仏様を彫ってください」というお話をいただいて、いざ制作に取り掛かるときはワクワクする気持ちが強いですね。

Q5 前田師が開催している仏像教室

編集部:仏像教室を行う意義を教えてください。

前田師:第一第三金曜日の夕方18時からの2時間、大本山清浄華院にて仏像彫刻教室を開催しております。

私の仏像教室に参加してくださる方の多くは仕事をリタイアされた方などが多いのですが、人生の先輩方と一緒にお話しさせていただくことは私にとっても非常に良い刺激になっています。
私は僧侶ですので、皆様と一緒に楽しい時間を営んでいくことにも大きな意義や意味があると思っているのですよ。
このようなご縁の積み重ねが今や未来、過去へと繋がっていきますから、今あるご縁を大切にしたいのです。

「仏像を彫る」というと難しいイメージがあると思いますが、お互いに良い刺激を受けながら楽しく仏像を彫っていき、そして将来は自分で彫った仏様と一緒に過ごしていただくというのは大きな刺激になるのではないでしょうか。
仏様を皆で楽しく制作し、最後はその仏様をお守りのようにお持ちいただいて人生を進んでいっていただけることが幸せなのではないかと思っています。


後編へ続く。。。




〈仏像教室開催情報〉
【日 時】第一、第三金曜日 18時~20時
【場 所】大本山清浄華院
【講 師】前田昌宏上人
【準備物】彫刻刀、筆記用具(鉛筆、赤鉛筆)、定規、スティックのり
【お申込み・お問い合わせ】
 清浄華院寺務所 075-231-2550
  E-mail: soumu@jozan.jp

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